ベトナムの低所得者層の間では、毎日10時間以上働いても食べていくのがやっとという人が珍しくない。そうした人たちが望むのが先進国への出稼ぎであり、日本の場合はそれが技能実習制度を利用した就労なのである。

 こうした技能実習生の多くが抱える深刻な問題がある。技能実習生として来日する際に、送り出し会社に支払う多額の手数料だ。

多額の借金を背負い
来日する技能実習生

 クエ(編集部注/2015年にベトナムから来日した男性)は言う。

「日本に来るのに払った費用は120万円くらいでした。土地を担保にするだけでは足りないので、闇金みたいなところからも借りなければなりませんでした。送り出し会社の話では、日本で働けば、1年くらいで返せて、あとは貯金に回せるということだったので、大丈夫だと思って日本に行くことにしたのです」

 ベトナムの1カ月の平均所得は4万~5万円なので、これだけの借金をして返済できなければ、家族どころか親族ごと破滅するリスクもある。

 にもかかわらず、日本で技能実習生が借金を返済するだけの額を稼ぐのは簡単なことではない。

「令和5年賃金構造基本統計調査」(厚労省)によれば、技能実習生の平均賃金は月18万1700円であり、ここから税金や衣食住にかかる費用が引かれることになる。会社の寮で生活費をシェアして切りつめたとしても、貯蓄に回せるのは月に5万円から多くても10万円だろう。

 最長3年の技能実習制度において、理論上は1年目で借金を返済し、残りの2年で200万円ほどの貯金をして帰国することは可能だが、必ずしもそううまく事が運ぶとは限らない。

 厳しい仕事や生活の中で心身を病む、賭け事などで大金を失う、同僚から金を盗まれる、日本人の上司からパワハラやセクハラの被害に遭う、賃金の未払いが起こる……。このような事態に陥れば、たちまち借金の返済が立ち行かなくなり、自分だけではなく、母国に残した家族まで路頭に迷いかねない。

 クエがまさにそうだった。

 建設会社で働きはじめて半年後、クエは最低限の生活必需品をバッグに詰めて勤め先から姿を消した。