残業も厭わずに
真面目に働くベトナム人

 ちなみに、失踪者は捕まることを恐れて、発見されるまでに何が何でも稼がなければならないという意識があるので、驚くほど真面目に働くし、残業も厭わないそうだ。そのため、特に一次産業の人手不足に悩む会社は、あえて身元を調べずにベトナム人をまとめて雇用することもあるという。

 彼はつづける。

「実習生は制度によって給料が抑えられていますが、うちが紹介する会社なら日本人と同じ給料をもらえます。普通に働いて月に25万円くらい、休みなしで残業をたくさんすれば30万~40万円は稼げる。だから僕らが手数料として半分取っても、15万~20万円くらい手に入る。家賃はこっちで負担しているので、実習生として働くより収入はいいんです。

 それに逮捕されなければ、何年だって働きつづけることができる。なので、その噂を聞きつけた失踪者が、自分から僕らのところにやってきて仕事を紹介してくれと頼んでくることもありました。もっとも多い時期は、アパートを3部屋借りて、15人くらい現場に派遣していました」

 失踪者1人から15万円とったとして、15人だと月225万円。アパート代や携帯代を差し引いてもそれなりの額にはなるだろう。

 前出のクエも、実習先から失踪した後、千葉県を拠点にしていたインドシナ難民の不良グループを頼り、住居と仕事を紹介してもらった過去がある。彼はそのグループの下で3年ほど不法労働をしたが、中抜きされることに不満があり、別の失踪者から紹介された食品関係の工場に移ったそうだ。この工場では在留資格のチェックはなおざりだったらしい。

 もう1人、同じくらいの時期に類似のビジネスをしていたのが、鶴間(編集部注/神奈川県大和市)に拠点をおいていた東南アジアの多国籍不良グループ「サワンナロック」メンバーのカムラだ。

 カムラは話す。

「サワンナロックが失踪者にやらせていた仕事は2つあった。解体業が1つ、俺たちがやってる店の従業員がもう1つ。女には東南アジア料理店を紹介して、キッチンの仕事をさせることが多かった。店の奥で皿洗いや調理をしていれば存在を気づかれにくいからね。

 ベトナム人の失踪者がサワンナロックのメンバーになることはなかった。あいつらはほとんど日本語がしゃべれないし、日本に溶け込もうって気持ちがない。だから、仲間って感じにはならなかった」