失踪したベトナム人を
世話する「業者」の存在

 技能実習生が職場から逃げ出すことは「失踪」と呼ばれる。給料や残業代の未払い、上司による嫌がらせ、あからさまな差別、生活困窮といった理由から、夜逃げするように行方をくらますのである。

 統計の上では失踪者の数はコロナ禍で一時的に減少したこともあったが、中長期的には右肩上がりに増えている。その数は過去最多の9753人に上り、うちベトナム人が5481人を占めている。

 現行の外国人技能実習制度では、技能実習生は特定の企業で実習を受けるために来日しているので、失踪した時点で在留資格は失われ、不法滞在になる。だが、彼らは多額の借金を抱えているため、最低でもその分を稼がなくては帰国するわけにはいかない。

 このようなベトナム人の失踪後の生活や仕事を支えたのが、不良化したインドシナ難民だった。ダン(編集部注/小学生時代に来日したインドシナ難民のベトナム人)は、一時期神奈川県川崎市を拠点とするベトナム人不良グループのメンバーだった。

 1世から2世までの混合グループだったという。

 彼は次のように話す。

「東日本大震災が起きた前後くらいは、今みたいにSNSが普及していなくて、技能実習生同士で情報交換することがあまりありませんでした。なので、ベトナム人が実習先から逃げると、東京とか神奈川にあるベトナム人コミュニティを頼ってくるんです。

 あの頃、僕らはベトナム人専用のカラオケパブを経営したり、盗品をベトナム人経営の店に卸したりして生活していました。その関係もあって、時々ベトナムレストランの経営者から『今、失踪者から相談を受けているんだけど、君たちの方でどうにかしてくれないか』と頼まれることがあったんです。

 それで僕らはアパートを借りて失踪者に寝泊まりさせ、不法滞在でも雇ってくれる会社を紹介することにした。もちろん、手数料は取りますよ。人によって違いますが、給料の50%くらいです。その代わり、住む場所と携帯電話はこちらで用意していましたし、仕事先でトラブルが起これば僕らが間に立って解決していました」

 インドシナ難民として来日した人たちは、貧しい生活を余儀なくされ、中学時代から就労していた者も多い。そうした経験から、どの会社なら不法滞在に目をつぶって雇ってくれるかを知っており、そうしたところへ失踪者を派遣していたのだ。