有形資産は、遊休化すると資産価値が落ちる。さらに、いったん使われてしまうと専有され、ほかに振り向けることができない。したがって、リアルバリュー(現在価値)でしか評価されず、将来価値(オプションバリュー)を持ちえないのだ。

 これに対して、知財や人財、顧客資産や関係性資産などの無形資産は、共有されるほどに価値が高まる。多重化可能な資産なのである。ネットワーク外部性が高いとも表現される。したがって、無形資産を将来の財務価値に変換する能力があれば、それは非財務資産ではなく、高い将来価値を持つ「未」財務資産となりうる。

 もちろん資産としては、そのような潜在的な可能性を秘めている「素材」にすぎない。そこから実際の価値を紡ぎ出すのが、組織能力という動的なパワーなのである。言い換えれば、同じ無形資産を持っていたとしても、そこから紡ぎ出される将来価値は、組織能力次第で大きく差が生じる。だから、人的資産という「素材」にいくら投資しても、それだけでは企業価値は高くならないのである。

マッキンゼーの組織能力を高める
「求心力」とは?

 では、組織能力を高めるための必要条件は何か。

 それは組織としての求心力である。組織の遠心力が大きくなると、総体としてのパワーは削がれていく。外縁が大きくなればなるほど、組織の求心力を発揮するのが難しくなる。そこに、組織能力が大きな差となって表れる。

 昨今日本では、「ダイバーシティ&インクルージョン」なるバズワードが飛び交っている。例によって、アメリカ直輸入。しかも周回遅れというお粗末さである。そもそも、アメリカではダイバーシティはいまや当たり前、「インクルージョン」こそが大切なのである。

 そもそも「インクルージョン」力がない会社には、優秀な異質人財は定着しない。自分の尖った能力を必要とする別の機会を、探し求め続けるからだ。彼らに定住の場所があるとすれば、それは自分の能力から桁違い(10X)の成果を生み出せる組織だけ。先述したマッキンゼーや、今もシニアアドバイザーとして支援中のアクセンチュアは、筆者にとってまさしくそのような組織だ。そして、そこでは「インクルージョン・ファースト」が当たり前なのである。

 ひるがえって日本では、「ダイバーシティ」の大合唱。しかし、異質な人財の数合わせをしていても何も始まらない。そもそも、現場に行けば異質な人財はいくらでもいる。属性だけをとっても、「日本人・昭和・男子」がいまだに幅を利かせているのは、本社の管理職くらいだ。それ以外の属性を持つ人財の頭数を増やすのは、その気になれば実行するのは簡単。ただし、それでは単にアメリカ流を表層的に追随する「擬態病」でしかない。