「会社がなくなる日」に向けて
会社員は今から何をすべきか

 そもそも日本人には、「個人」、すなわち「インディビジュアル(in-dividual)」、分割できない個としての自覚は希薄である。逆に言えば、「分人(dividual)」として、複数の関係性の中で「和」することに長けている。それを筆者は「和人(co-dividual)」と呼んでいる。

「和人」にとっては副業どころか、本業をいくつも持つ「複業」状態に身を置くことも、さほど難しいことではないはずだ。デジタルネイティブの若者は複数のアバターに変身して、いろいろな場で活躍することにこそ働きがいを見出すことだろう。

 永久就職という言葉は、とっくの昔に死語になった。同様に就職、そして転職という言葉さえ、死語になるのは時間の問題である。いずれは「会社」という言葉すら、死語になる可能性が高い。

 そのような未来に向けて、我々はいまから何を心掛けるべきか。人と会社双方の立場から考えてみたい。人の側に立つと、3つある。時間軸、空間軸、価値軸に関するものだ。

 まず時間軸。みずからの「志(パーパス)」を高め「信念(ビリーフ)」を深め続けること。何を目指すのか、そしてその実践にあって何に基軸を置くのか。それが成長の原動力となるはずだ。日本に非連続成長をもたらした偉人たちを、再度見渡してみよう。聖徳太子から、『代表的日本人』(内村鑑三著)に挙げられた5人(西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮)、そして渋沢栄一翁から稲盛和夫翁に至るまで、志と信念を研ぎ澄ませていることにおいて、見事に共通している。

 空間軸では、「共感の輪」を広げること。一人でできることは限られている。常に好奇心の羽を広げ、外に関心を持ち続け、仲間を広げ続けなければならない。その際に基軸となるのが、日本人が古来より育んできた「和人」力である。欧米流の「個人」探しに躍起になるのではなく、「和人」の精神に立ち戻ることができれば、世界へと共感の輪を広げていくことができるはずだ。

 価値軸では、学習能力に磨きをかけること。リスキリングが時代のキーワードとなっているが、いかに新しいスキルを身につけようといずれ陳腐化する。メタ学習、すなわち学習することを学習する力こそが、問われているのだ。「メタ学習力」と呼ばれるものである。本書の言葉で言えば、「守破離」である。この日本古来の流儀をいま一度学び直し、アップデートし続ける必要がある。

 では、会社として心掛けるべきことは何か。ここでも人の課題と同様、3軸でとらえることができる。