今後も生き残るために
企業がやるべき「3つのこと」

 第一に、会社レベルで「志(パーパス)」を高らかに掲げ、各部門、さらには社員に「自分ごと化」してもらうこと。パーパスを掲げる企業は増えたが、それが実践につながらない事例が後を絶たない。筆者が「額縁パーパス」と呼ぶ残念な光景である。もちろん呼び方は、昔ながらの「企業理念」でも「ミッション」でもよい。大切なことは、それをきちんと組織の中に実装することである。

 しかし、それだけでもまだ足りない。確実な実践(プラクティス)に結びつけるためには、パーパスという未来のきれいごとより、「プリンシプル(原理原則)」を現場に実装する必要がある。この点は、『エシックス経営』(東洋経済新報社)で詳述しているので、参照していただきたい。

 第二に、「関係性の輪」を広げること。個々の組織は、内と外を壁で隔てることによって、アイデンティティを保とうとする。生物における細胞が、細胞膜でみずからを包んでいるのと同じだ。しかし、その中に閉じこもっていては、新陳代謝を起こせず、死を迎える。組織の壁を越えて、自社の内部、そしてさらに外部へと、大きく交感のネットワークを広げていかなければならない。

 日本は伝統的に、生態系全体で群進化(群としての進化)を遂げてきた。相互扶助の精神である。アメリカ流の「競争」ではなく、和の精神に基づく「共創」こそが、世界に誇る日本のお家芸だったはずである。この古き良き伝統を取り戻し、地球全体、さらには宇宙という外縁へと、広げ続けなければならない。

 第三に、「組織能力」に磨きをかけること。昨今、日本では人財開発が大ブームとなっている。しかし一人ひとりの能力を磨くのは、前述したように本人たちの本務である。企業が心掛けるべきことは、人財開発ではなく組織開発である。優秀な人財を育てることより、個々の人財の力が10倍化されるような組織をいかにつくるか。それが問われている。

 産官学、そしてマスコミも、この点をまったくはき違えている。日本の会社が伝統的に誇っていた組織力をいま一度取り戻し、パワーアップしていく必要がある。日本企業復活の本質的なテーマであり、かつシン日本流経営の一丁目一番地なので、今後も本連載で詳しく論じることにしたい。

※注:日経ビジネス電子版の記事『企業は国民の幸せのために 柳井正ファストリ会長兼社長』(2021年1月15日)より引用