
猛烈に焦る嵩
「安定をとるか夢をとるか」に決着
手嶌は今月号の反省(時間がもっとあればお茶の水博士や天馬をもっと描けたというようなこと)や次の作品の構想を編集者に話している。どんどん先に進んでいるらしい手嶌に猛烈に焦りを覚える嵩。カレーを早々に食べ終えて席を立つ。
通りすがりに手嶌は嵩に声をかける。「靴紐がほどけていますよ」と立ち上がってわざわざ結び直す。
二重にしたらほどけないとかなんとか。打ち合わせ中に、見知らぬ人の足元が気になって声をかけてしまうところも天才の所以なのか。
憧れの漫画家にひざまずかれ靴紐を結んでもらっている。でも嵩はこれを光栄とは思わない。このひとが自分のことを知らないことを猛烈に気にする。
手嶌どころか誰も嵩の作品を知らないのだ。カレーを食べながら安定をとるか夢をとるかまだ迷っていた嵩だったが、この手嶌との出会いでグッとアクセルが踏まれ、会社に戻るやいなや用意していた退職届を部長に出すのだった。手嶌も医者から漫画家に転向したと直接聞いたことも影響しただろう。
手嶌は嵩よりも若いが、話のテンポが早く才気がありそうで、かつ、爽やか。いせたくや(大森元貴)も早口だったが、次世代の若者はどうやら嵩たちの世代よりもしゃべり方が早いようだ。眞栄田は手塚治虫のしゃべりかたを意識しているようにも感じた。
人生の岐路に立っているのは嵩だけではない。のぶもまた、鉄子(戸田恵子)の下で働くうえで気がかりなことがあった。代議士になってからの鉄子は子どもや女性の話を聞くことはなくなり、自分の立場を守るために必要な人たちとばかり付き合っている。
政策を通すためだとはいえ、大事なことが抜け落ちている気がして、のぶは「戦争のない世の中を作ること」が一番大事なのではと鉄子に物申してしまう。でも、それがきれいごとだと「甘い」と否定されて……。
もやもやを抱えて帰宅すると登美子(松嶋菜々子)がやって来た。