インフレ期に必要なのは
「成長の再分配」

 現在の日本経済には、数十年ぶりの好機が訪れている。インフレによって名目成長率は回復し、税収も堅調、累積債務は縮小し、企業収益も拡大している。これはかつてない「追い風」である。

 しかし、この流れを「国民生活の向上」に結びつけられるかどうかが、今後の最大の焦点である。もし企業が利益をため込むだけで、労働者に還元しないのであれば、社会的な不満はますます高まり、経済は逆流し始めるだろう。

 インフレ期において重要なのは、単なる減税や給付金ではない。むしろ、「成長の果実」を広く分配する制度設計、すなわち賃金や社会保障、税制の再構築である。

 そのためには、企業が賃上げをした場合に優遇を受けられる税制度、家計の可処分所得を高める所得控除の見直し、再分配機能を強化する社会保険改革など、総合的なアプローチが必要だ。

 もちろん、減税やバラマキは一部導入すべきである。たとえば、水準以上の賃上げを実施した企業に対する法人税減税と、インフレで苦しむ中流層未満の人たちへの現金給付や減税措置は「再配分政策」としてやるべきだ。

 インフレは、財を持つ者が得をし、財のない者が損をする。その格差を埋めるような方策が必要である。ただし、富裕層を含むすべての人たちを包括するような減税は、日本経済の復活をかえって遠ざけることになる。

財政の正常化は
日本経済完全復活の「通過点」

 日本の財政赤字は、コロナ禍と世界的インフレという特殊な環境によって、劇的に縮小した。だが、それは「結果的にそうなった」だけであり、「意図的に成し遂げた成果」ではない。

 いま必要なのは、このチャンスを生かし、実質賃金の向上と持続的な成長戦略を実行に移すことだ。減税やバラマキのような政策で国民の歓心を買うばかりでは、日本経済にはかえってマイナスになる。

 産みの苦しみのこの時期こそ、覚悟をもって根本的な分配と成長の制度設計を進めることが、次なる日本経済の飛躍のカギとなる。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)