【副作用2】
中小零細の倒産が生む「サプライチェーンの闇」

 最低賃金上昇の二番目の副作用としては、最低賃金を上げることによって限界企業の倒産が増えるという「経済学的なメリット」が引き起こされます。

 倒産のどこがメリットなのかと思うかもしれませんが、そもそも最低賃金ぎりぎりでも利益がほとんど上がらないような企業は、経済学の理論としては市場から退出して新陳代謝が起きたほうが、経済発展につながると考えるのです。

 この理論、マクロ経済全体で考えると合理的な理論かもしれませんが、この新陳代謝は日本経済のミクロで見ると問題を引き起こします。というのは、最低賃金の上昇についていけずに人手不足倒産を引き起こすような零細企業が、日本経済の中でコアな役割を果たしていることが多いからです。

 たとえばエッセンシャルワーカーが最低賃金近辺で働いている重要な業種が介護です。介護事業の料金は介護報酬で決められるのですが、3年に一度の改定を経てこの10年の介護報酬の引き上げ率は6%強でしかありません。一方で最低賃金の引き上げ幅は10年で約40%と急上昇していますから、介護業界の零細企業はそろそろ息の根を止められそうです。

 おなじような動きが保育所、町の飲食店や小売店にも広がるでしょう。それだけでも問題ですが、さらに大きな問題を引き起こすのが製造業の零細の破たんです。

 なかなか給料を上げられない町工場、下請け中心の加工業といった製造業の零細企業が、日本経済のサプライチェーンにおいて実は重要な役割を果たしているケースがあります。

 そういった重要な企業がなぜ給料を上げられないかというと、大企業の購買部門が下請け企業を不当に安く買い叩くことが常態化しているためです。

 社会問題になったケースとしては、日産自動車が部品メーカーへの支払額を割戻金名目で30億円以上不当に減額させたケースや、王子ネピアが下請けへの発注を一方的に取り消して発注数量の3割の受け取りと支払いを拒否したケース、シャトレーゼが委託した包装資材を受け取らないなどの理由で下請法違反で勧告されたケースなどがあります。