こういったひどすぎるケース以外にも、大企業による下請けいじめは山ほど存在するのですが、公取委の体制が小さいせいで見逃されているのが実情です。

 そこで、こういった構造の中で下請けの零細企業が倒産してしまうと何が起きるかというと、サプライチェーンの混乱です。大企業側が発注すれば当然スケジュール通りに入ってくるだろうと想定している中間材料や包装材、部品が、4次、5次下請けの倒産で急に入ってこないことが判明するような混乱が起きるでしょう。

 現実にはその代替になる取引先が探されることになります。その時になってようやく大企業は取引価格の値上げを認めることになります。

 サプライチェーンの混乱が一時的な問題だとすれば、長期的な課題はコストの上昇です。下請けいじめのリストで公表される企業のサプライチェーンの先には、消費者に安い価格で商品を提供している大企業がラスボスとして君臨します。長期的にはわたしたちはこの影響を物価の上昇として実感することになるでしょう。

【副作用3】
アンダーグラウンド需要が生む「グレーゾーン労働の闇」

 最低賃金引き上げについて経済学の理論上の3つめの副作用は、違反労働の増加です。先述したように最低賃金の引き上げは労働市場の需給のバランスを壊します。

 すると市場には「人を雇いたいのに雇えない企業」と「働きたいのに働き口がない人」が出現します。そこで労働違反が増えることになります。

 アメリカで経済学を学ぶと、こういったケースの典型例として教えてくれるのが不法移民の雇用です。アメリカでは中小の工場や町の小売店や飲食店、ハウスメイドに至るまでありとあらゆる場所で最低賃金よりも安い賃金で働いてくれる労働力が存在します。