たとえば、「私はうつだから、うつ病の薬を出してください」なんて言う「自称うつ病」の人が来院した場合、医師が「キミはうつ病じゃないから薬は出さないよ」と言うと、その患者さんは病名をつけてくれて、診断書と薬を出してくれるところを探して病院を渡り歩きます。

 10くらい当たってみると、残念なことに、何も考えず薬を出してくれるところに行き着く。そうすると、そこで満足してしまい一生抜け出せない……なんてこともあります。

「自分に合う」と思うところが必ずしもいいところとは限らないことを、まずは知ってほしいなと思います。

 まあ、もちろん世の中には変な医師もいますから、そういう場合は違う病院に行ってみるのも1つの手ではあるんですけどね。

まだまだ世間から
誤解されている「精神科」

 僕からすれば、精神科の実状がまだまだ世間に知られていないことも影響していると感じます。

 精神科医というと、世間の多くの人はカウンセラーさんみたいなものをイメージするんですよね。「自分が話したいことを話せて、全部聞いてもらえるんじゃないか」って。

 でも、実際はそうではありません。現代の精神科の仕組みではそういうことは難しいんです。

 たしかに僕たち精神科医は、言葉を用い情報を得て、診断をし治療に必要な薬を判断しますが、それは内科の先生方が問診や検査から情報を得るのと同じ。おしゃべりが目的ではありません

 診断の結果、治療ではなく、心理療法などが必要と判断すればカウンセリングなどの導入を提案することがありますが、多くの場合、カウンセリングは専門の心理士さんなどに委ねられます。

「精神科は全然話を聞いてくれない」なんてことを聞くことがありますが、そういうことが知られていないことが原因なのかなとも思います。