自伝的記憶をひもといてみれば、物心ついてから今までのあらゆる出来事や、それにまつわる思いが蘇ってくる。そこには、個々バラバラな記憶の断片があるのではなく、「あの出来事が後々のこの出来事につながっている」「あのときの経験がその後のこうした行動傾向につながっている」といった感じで、因果の連鎖があり、自分らしさの片鱗が散りばめられている。いわば、だれもが自分の物語を生きているのである。
では、自分はどんな物語を生きているのか。その物語の中で、これからどう生きていくのがよいのか。そこで大切なのは、過去をじっくり振り返ることである。そうすることで自分らしい人生をつかむためのヒントが見えてくる。
働き盛りの30代や40代の頃を振り返って、きつくて大変だったなあ、もう嫌だと思うこともあったけど、よく逃げ出さずに頑張れたものだと、当時の自分に感心する人もいるだろう。あるいは、キツさのあまり逃げ出したけど、あのとき耐えることができたら、もっと別の人生になっていたんだろうなあ、でもどっちがよかったのかなあと判断に悩む人もいるかもしれない。
青春時代には、受験があったり、親友との語り合いがあったり、恋愛や失恋を経験したり、進路に悩んだり、もっと大きな枠組みで生き方に悩んだりと、その後の生き方に影響を与える経験がたくさんあったはずである。そんな青春時代を振り帰ると、傷ついたり悩んだりしたけど、今思えば本当に楽しかったなあといった思いが込み上げてくるのではないか。なかにはあんな苦しい時代に戻りたくないという人もいるだろうが、あの頃に戻りたいという思いに駆られる人の方が多いのではないか。

子どもの頃は、誰にとってもとても懐かしいはずだ。子どもの頃の写真をアルバムで見ていると、自分にもこんな時期があったんだなあと不思議に思ったりする。幼い子を見て、何の悩みもない平和な世界を生きていて羨ましいなあと思うこともあるかもしれないが、幼い子どもたちも決してメルヘンのような世界を生きているわけではない。自分の幼稚園時代や小学校時代を思い起こせば、幼いなりに深刻な悩みがあったり、苦しい思いをしたことがあったりしたことに気づくだろう。子どもも、幼いなりに厳しい現実を必死に生きているのだ。
そんなことを踏まえて、これまでの人生を振り返ってみよう。自分らしい人生のあり方というのは、そう簡単につかめるものではない。これまでの人生をじっくり振り返ることで、少しずつ見えてくるものがあるはずだ。少しでもいいから、これまでの人生を振り返る時間を持つようにしたい。それが、これからの自由な時間をどのように使えば自分らしい納得のいく人生になっていくかを知るためのヒントにつながる。