日本のデザイン業界は国内ばかりを見ていないか
――そもそもデザイン業界に海外を目指す意欲があまりないということでしょうか。
そうですね。私が昨年(24年)7月の着任以来、日本のデザイン界の方々と意見交換させていただいた感想としては、海外への訴求を意識しているデザイナーは想像以上に少ない。これには率直に驚きました。
同年10月、経産省で「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」が発足しました。ゲーム、音楽、映画、漫画、書籍、アニメ、アート、デザイン、ファッション、見るスポーツという10分野の振興策を議論しましたが、デザイン分野だけは海外進出の議論があまり出てきませんでした。
経産省ではこの研究会で、世界最大級の国際デザイン賞の一つ、ドイツの「iFデザイン賞」(iF Design Award)で、日本のデザインがどのように評価されているかをリサーチしました。企業部門ではベスト100社のうち17社を日本企業が占めていましたし、国別でも2位と健闘していました。しかし、「デザイン・建築事務所」部門になると、日本企業は6社しか登場せず、国別順位でも4位です。この海外志向の薄さにはショックを受けました。常に海外市場を視野に入れているファッションのような分野とは大きな違いがあるのです。
――なぜでしょうか。
「モノからコトへ」と盛んにいわれるようになり、「コトづくり」の重要性がいささか強調され過ぎていることが理由の一つではないでしょうか。
本来、「デザイン」という言葉には、「モノ」も「コト」も含まれています。しかし、デザイン業界には「モノづくりよりコトづくりが重要だ」と堂々とおっしゃるデザイナーの方々が少なくありません。「造形としてのデザインよりコトづくりに興味がある」という学生の皆さんや、こうした姿勢を肯定するアカデミアの方も増えています。
もちろん、「デザイン」が「意匠」や「造形」だけでなく、「設計」やユーザーの利用体験まで含む概念であることは私も分かっています。しかし、実際にモノやサービスを購買するとき、やはり造形美は欠かせない要素です。経産省としては、「造形」を軽視するかのような言説には強い危機感を覚えるのです。
「コトづくり」のユーザーとして基本的に日本人が想定されていることも懸念の理由です。内需が縮小する中、外需をいかに取り込むかがますます重要課題になっています。海外市場においては、最終的には「造形」の審美性こそが強みになるのではないでしょうか。
しかし、わが国を代表する「グッドデザイン賞」でも、造形美が正面から論じられにくくなっているように感じます。GKデザイン機構の田中一雄さんは、『デザインの本質』(2020年,ライフデザインブックス)という著書の中で「現在の日本デザイン界においては、依然としてコトのデザインに対する注目度が高いように思える。しかし、どんなに課題解決されたものであっても、またいくら新たな価値を生み出すようなものであったとしても、それ自体の姿や質がユーザーの心に訴える魅力的なものになっていなければ、社会や生活者に受け入れられることは難しい」と語っています。私たちの危機感は、まさにここに書かれている通りです。
