デザイナーにお願いしたいのは
まずは「モノづくり」としてのデザイン
――過去にできていたことが、どうして今はできないのでしょうか。
日本企業のコンシューマー分野での競争力が落ち、デザインをダイレクトに活用できる商材が減ってきていることが大きいと思います。そうこうしているうちに、中国勢やアジア勢が追い上げてきています。先日、自動車メーカーのデザイナーの方々と意見交換した際も、中国メーカーのEVのデザインがどんどん良くなっている、という強い危機感を語っておられ、私自身大変驚きました。
全社で価値観を統一して、造形の共通性を持たせるのはリスクもあるでしょう。大企業であれば、縦割りの壁を乗り越える調整プロセスも煩雑ですし、権力闘争も起こり得ます。でも、それをやらなければブランドは構築できません。
――「デザイン経営」のもう一つの軸「イノベーション」についてはどうでしょうか。
製品やサービスをデザインシンキングでゼロから見直してより良くする、というアプローチは多くの企業が取り入れていますし、成果も出ていると思います。しかし、破壊的なイノベーションを起こすためには技術的なブレークスルーも必要ですし、デザイナーだけでなく、多様なバックグラウンドや異なる経験値を持つメンバーが集まることが重要になると思います。
――「『デザイン経営』宣言」では、デザイナーの「人間中心の視点」がイノベーションに資すると語られていました。
「人間中心」の視点は重要ですが、デザインシンキングそのものはデザイナー以外でも使える手法です。むしろ、人間中心の視点を踏まえていかに造形するか――が、デザイナーならではのスキルではないでしょうか。造形によってモノの付加価値が高まり、ひいては日本の国際競争力が上がることを私たちは期待しています。
そして、そのためにもモノづくりの技術を持つ人の地位をもっと上げなくてはいけません。先ほども触れたマツダの前田さんは、「天才的な感覚を持つモデラー、誰にも負けない技術を持つ職人」を「会社の宝」だと語っていますが、私も同感です。
私が以前担当していたアニメ業界では、「アニメーターの地位を上げよう」「人件費を上げよう」という動きが活発化しています。しかし、デザイン業界は逆で、モノをつくるクリエイターより、コトをつくる人の方がもてはやされてはいないでしょうか。率直に申し上げて、その理由が分かりかねるところです。