「IP」の価値を重視した
ブランドづくりに必要なこととは

――あくまで世界を見据えた動きを支援したいということですね。

 幸い日本のデザインを世界に押し出していく動きもあります。例えば、「日本空間デザイン賞」「キッズデザイン賞」「ウッドデザイン賞」は、先ほども触れた世界最大級の国際デザイン賞「iFデザイン賞」と提携して、各賞の受賞者はiFの1次審査を免除される仕組みを導入しています。私ども経産省としても、世界にブリッジを架けようとするこうした動きをぜひ応援したいと思っています。

 創造性を持って、海外に訴求力のある商材を作り出していく。それが経産省のミッションです。もちろん、全てのデザインが海外に照準を合わせる必要はありませんが、日本の商材はグローバルなレッドオーシャンに飛び込んで熾烈な競争に直面しており、そこにぜひデザインを活用してブランドを確立し、収益を上げてもらいたい。そして、こうした切磋琢磨こそが尊い、という共通認識を持つことが大事だと思います。

――そのために、デザインに何を期待しますか。

 平たく言えば「かっこよさ」です。デザインという概念には、造形=モノづくり、体験設計=コトづくりの両面が含まれていますが、「消費者の購買意欲」は、最終的に造形のオリジナリティーや創造性に帰する部分が大きいと考えます。それができるのがデザインです。それなくしてブランド価値を生むのは難しい。

 特に今、日本のデザインに欠けているのは、「製品群全体を一つのコンセプトで束ねる意識」です。一つ一つの製品やサービスは良くても、製品群、サービス群として唯一無二のバリューを示すことができていないケースが多いと思うのです。これを経産省ではファッション分野を例に、「ファッションIP」という言葉で説明しています。ここでいう「IP(Intellectual Property)=知的財産」とは、単に著作権で保護される客体という意味ではなく、デザインなどにより経済的に独立して収益を生み出せる知的財産を意味しています。IPの価値が高いということは、ブランドとしてのアイデンティティーが確立して、クリエイティブディレクターが代わっても、ブランドとしてのイメージや価値がぶれず、訴求力はますます強化されることになります。

 例えば、ドイツの自動車や、欧州のハイブランドといった分野では、デザインが強く統合されていて、ユーザーのプレミアム感や安心感を醸成しており、ブランドを確認しなくても、どの会社の製品であるのかが分かる。これがIPとしての価値です。日本の場合、代表的なのは自動車で、レクサスはレクサス、マツダはマツダらしいアイデンティティーが表現された製品群がIPとなっています。だからブランドとして海外で競争できるわけです。

 もちろんそれは簡単なことではありません。マツダの前田育男さん(マツダ シニアフェロー、元デザイン本部長)が、著書『デザインが日本を変える』(2018年,光文社)で、組織内の共通の価値軸を作り出すことの難しさを語られていて非常に感銘を受けました。「ブランド経営」とは「製品群、サービス群として、共通の価値観に裏打ちされ、世界の消費者に支持される製品を出していく」経営手法です。これをどのように定式化していくか。これが大変重要な課題です。

 かつては日本の家電メーカーも世界を席巻していました。もちろん今も単品で見れば魅力的な製品はたくさんあります。けれど、全体としてのブランド価値は弱くなっているように感じるのです。