一歩足を踏み入れると
どんどん先に進みたくなる
「デメリットだらけなのによく入れるね」ということを当時から今に至るまでたまに言われてきたが、あまりピンと来なかった。おそらくメリット・デメリットが人それぞれなので、その人の指す「デメリット」が私にとってはそれほど痛手ではなく、かつ私がメリットに思えている部分がそれらを上回っていたからではないかと思う。
で、バンドは結局いろいろ都合がつかずろくな活動もしないで冬眠のような状態に至ったのだが、今でもタトゥーを入れたことは後悔していない。最近ではもう上半身裸でやるステージもやっていないが、バンドをやってきた過去は別に隠したいものでもなく、当時の名残として背中のタトゥーを留めておくことに異存はない。まあ普段は服で完全に隠れているので気を使うこともない。
タトゥーを入れている人がたくさんいる界隈に行くと、自分のタトゥーの方針「見えないところに入れている」が恥ずかしく思われることがあった。ちゃんとした理由があってその択を選んだはずなのに、「見えないところに入れている=覚悟が足りない・中途半端」といった劣等感を、勝手に想起してしまう。
タトゥーを入れていない人や自分より少なめのタトゥーの人に対して優越感を覚えることはないが、自分より分量が多い人に対してだけ「劣等」を突きつけられている気がしたものである。
さらに、一旦入れてしまうと抵抗が減るのと同時に自分のタトゥーの少なさがしょぼく思えてきて、新たな図柄を入れることをさかんに検討した。美容整形にはまる過程にもしかしたら少し似ているかもしれない。一度足を踏み入れるとさらに進んでいかなければ不安を覚えるのである。
そのように、自分のタトゥーへの疑問が浮かぶたびに初志を思い出し、施術の痛みを思い出し、新たな絵柄を追加することなく自分を落ち着かせたのであった。
優越感や劣等感とは別に、タトゥーを入れている人を見ると仲間を発見したようで無条件に嬉しくなる。「お互いやりましたね」という共犯意識のような傷の舐めあいのような、後ろ暗いところからくる親しみが湧くのである。