カーネギーは、人を変える第一歩として、「まずは、感謝と称賛から始める」ことを挙げていますが、まさにその実例だと感じました。

 信頼し、期待をかける。その姿勢が、相手の内側にある力を引き出していくのです。

 一方で、その称賛が実態に即しているかどうかは、それほど問題ではないのだ、ということも感じます。

 寺尾さんが壇上に立ったとき、聴講者の私たちのことを本当に知っていたわけではないでしょう。けれども、あの冒頭の言葉が私たちの心に響いたのは、そこに「信じている」というメッセージを感じたからだと思います。

 カーネギーは、「人を変える9原則」のなかで、「相手に期待を伝える」ことが、成長をサポートするうえでのポイントになると説いています。

 期待をかけ、たとえ実績がなくても「発想力がすばらしい」「あなたのリサーチ力にかかっている」といったよい評判や評価を与える。すると、相手はそれに応えようと努力し、結果として期待以上の成果を上げることもある、というものです。

 人は、自分の力を信じ、託してくれていることが伝われば、自信を持って行動できます。

 称賛は、「こうあってほしい」という信頼の投げかけでもあるのです。

気心の知れた相手にこそ
称賛や感謝を伝える

 まだ相手のことをよく知らないころは、ねぎらいや称賛の言葉も自然と出てきやすいものです。しかし、気心が知れてくると、「あなたならできて当然」「この程度で褒められても、うれしくもないだろう」と、褒める機会が減っていく。そんな傾向はないでしょうか。

 けれど、本来は、関係が深まってからこそ、意識して称賛や感謝を伝えるべきなのではないか、と思います。

「小さな進歩も惜しまず褒める」とは、カーネギーが「人を変える9原則」で掲げている言葉です。

 大きな成果を上げたときだけでなく、日々の努力や習慣への敬意をきちんと言葉にすること。それが、相手の自己肯定感を支えます。