葬儀の日、みんなで兄の死を悼んでいると、高齢のいとこが女性に対して大声で言い放ちました。

「もし、そんなに時間が経たずにあなたが死んだら、もう場所がないから、あなたのことは焼く(verbrennen)しかないわね!」

ドイツ人にとって
火葬は「よろしくないもの」

 ちなみにドイツでは、誰と・どこの・どのようなお墓に入るかは生前の「本人の意思」によるところが大きいようです。日本のような「家制度と結びついた考え方」はないため、妻が夫の家の墓に入るという慣習はありません。ですが、夫婦であれば同じお墓に入ることが多いのです。

 夫婦のどちらかの親族の墓地に、夫婦のお墓を立てることもよくあります。つまり、「嫁に行った娘」が自分の両親の墓の隣に「夫婦墓」を立ててもいいし、自分の両親の墓に入ってもかまいません。

 したがって、お墓は「核家族だけでもオッケー」「先祖代々でもオッケー」「おひとり様でもオッケー」です。とはいえ、よほどのこだわりがなければ、家族のお墓のある墓地で眠るのが一般的です。

 ここで特筆すべきは、昔ながらのドイツ人の感覚だと「焼く」ということに「ギョッとするような感覚」が伴うことです。

「いとこの言うこともわからないではないの。兄は過食気味で体重が150キロもある、ものすごい巨体だったから、兄が亡くなった数年後に私が亡くなってしまうと、土葬で同じお墓に入るのは、確かに難しいかもしれない。でも、兄のお葬式のその場で、『もしあなたが死んだら焼くしかないわね!』と大声で言うこと自体が、非常識よね」

 ドイツはキリスト教徒が多く住んでいる国です。バイエルン州など南部はカトリック教徒の割合が多く、北部ではプロテスタントが多くなります。いずれにせよキリスト教では、火葬は長らく「よろしくないもの」とされてきました。なぜなら「人間は土から来て土に還る」という概念があり、イエスも土葬されたと考えられているためです。日本で当たり前のこととして行われる、火葬場での「遺骨拾い」がショックだったという声は、日本にいる欧米人からよく聞きます。