
何やら諍いの声が聞こえてきて……
「ママ、鯛焼き買うてえ。鯛焼き、鯛焼き――」
こう泣きさけばんばかりに大声で母親に駄々をこねている子どもがいた。ここ東山商店街ではいくつか鯛焼きを売っている店がある。店によってはひとつ100円で買える。
「あかんで、あかん。あんたさっきここ来る前に人口衛星饅頭食べたばっかりやろが!」

母親がこうあやす。だが子どもも食い下がる。「あめゆでもええで」「ママも飲みたいやろ」「あめゆ飲みたいわ」と母親に財布の紐を緩めさせようと必死だ。
「ああ、もうあんたには負けたわ! 明日、明日な、あめゆ買うてやるわ!」
母親のこの言葉で子どもは大人しくなった。そして、そのまま商店街の人混みのなかへと紛れていった。
生姜の絞り汁と水あめをかけ合わせて湯で溶いた飲み物、これが「あめゆ」だ。さらにこれを冷やしたものが「冷やしあめ」と呼ばれる。関西で親しまれている飲み物だ。
ここ東山商店街では1杯50円でこのあめゆが飲める。ひしゃくでコップ一杯分をすくってくれる。これをその場で飲み干すスタイルだ。このスタイルで夏場はかき氷やミックスジュースを提供しているところもある。大手のショッピングモールやスーパーマーケットでは滅多に見られない光景だ。

さらに商店街内を歩き進むと何やら諍いの声が聞こえてきた。
「人にぶつかっといて挨拶なしか」「やる気か」「俺がその気になったらお前なんかボコボコやぞ」……。
物騒な雰囲気である。目をやると、そこには海外ブランドのジャージのボトムスに光沢感のあるVネックのTシャツ姿の若い男性。色は黒で統一されている。金髪のソフトモヒカンで胸元と腕には太目の金のブレスレッドを巻く、見るからに強面だった。
ところが「ああ、ごめん、ごめんやで。おじさんが強いんはわかってるから。俺が悪かった。ごめんやで」
強面の若い男性が、平身低頭、謝っている。これに「おじさん」と呼ばれた年配の男性がこう応える。
「おう、わかっとったら、それでええんや――」
こう言うなり、開襟襟の白シャツにスラックス姿のどうみてもお爺さんである「おじさん」は、颯爽とシニアカーを駆って商店街を後にした。後で聞くと、シニアカーのかごの中には商店街の名物のひとつであるお好み焼きがたくさん入った紙袋が入っていた。
「ここで会うたら、絡んでくる人やねん。まあ、強いんやろうな」
諍いの様子を窺っていた筆者と目が合った強面の若い男性は言う。男性は子どもの頃から近隣に住み、商店街にあるパチンコ店によく遊びに来ているのだそう。どうやら諍いでもなんでもなく、二人ならではの普段のコミュニケーションのようだ。