とはいえ、いきなり部屋を飛び出したりすると、周りが動揺するかもしれません。「ちょっとトイレ」とか「ああ、電話をかける用事があったんだ」とか、適当な言い訳をしてその場を離れるといいでしょう。

 それでもなお、怒りの対象が心に浮かんで腹が立つかもしれません。その場合は、怒りの対象とは関わりがないものに意図的に注意を向けることが有用です。注意を今ここにあるごく当たり前のものに向け、そこに注意をキープします。

 目の前に見えるものをただ記述するのも有効です。「ここにボールペンがある」「ここにパソコンがある」といったふうにただ見えるままに記述していきます。「ボールペン、ボールペン」「パソコン、パソコン」と2回ずつ唱えていくのでもいいです。100から7ずつ引き算していくのもいいでしょう。

 これらの方法は、怒りについて考えないようにする、怒りの感情を抑え込もうとする、怒りから注意を引き離そうと努力する、こととは違います。怒りについては何もしません。怒りは放っておいて、ただ他のことに注意を向け、他のことに注意を置き続けるのです。

 怒りの思考過程に飲み込まれてしまっている場合は、ともかくその流れをストップさせるために「思考停止法」を使うのもいいかもしれません。これは行動療法と呼ばれる心理療法で用いられる思考の制御のテクニックで、「ストップ」と大声で叫んだり、パンッと手を打ち合わせたりして、頭の中の激しい考えの渦から注意を引き離すという方法です。

 さすがに社会生活の中でこれをそのまま実行すると、周りにいる人がびっくりしてしまうので、その場合は心の中でストップと叫んだり、道路標識の停止のマークをイメージしたりすることが役に立つでしょう。

怒りの感情を
観察対象とする方法

 また、怒りの感情を観察対象とする方法もあります。

 怒りの感情を観察するには、まずは怒りの対象(人物や出来事)から注意を引き離すことが必要です。引き離した注意を、怒りの感情そのものに向けて観察することで、怒りを制御下に置き続けることができます。