「何のために生まれて」――嵩役・北村匠海が“アンパンマンの問い”に見つけた、自分だけの答え

孤独な職業だからこそ必要だった“言葉の支え”

 北村さんがずっと前室にいたら、いつの間にか今田美桜さんまでいてくれるようになった。そんなふうに1年間、パートナー役を演じた今田美桜さんを北村さんは讃えた。

「この作品の主人公はのぶで、主演は今田美桜であって、柳井嵩はのぶを支える立場です。波乱万丈な人生だったのぶを演じる今田さんも、1年間の撮影の中で、何度も立ち止まって、後ろを振り返る瞬間みたいなものがあって。それを僕は一番間近で見てきました。

 その都度、いろいろなことを話し合って、のぶの思いだったり、嵩の思いだったり、二人の道筋を言葉にしてちゃんと確かめ合いながら、やってきました。

 そこで一番感じたのは、彼女の責任感の強さです。そこが最ものぶと通ずるものだったように感じます。そして、常に現場を明るく照らしている。これはもうずっと1年間変わっていなくて。以前も話したかもしれませんが、本当にひまわりのようで、彼女がいると現場がパッと明るくなるんです」

 長丁場、今田さんも北村さんも迷いや悩みを感じることがあった。そういうときもふたりは支え合った。

「役者とは孤独を感じやすい職業で、誰かと言葉にしてちゃんと話して一個一個消化していかねばならない瞬間が、僕にもとてもたくさんあったんですよ。柳井嵩として悩む瞬間は、僕が1年前に想像していた以上に多くて。

 そういうとき、今田さんとまるで松葉杖のように支え合いながらやってきました。そんなときでも、何があっても前を向いているのは今田さんだったという気がしています。その強さに全員が魅了されて支えられていたのではないかなと思います」

 そうやって紡がれていった『あんぱん』はどんなラストを迎えるのだろうか。

「柳井嵩として1年間この作品と向き合ってきて、僕は誰が何と言おうとこれはのぶの物語で、嵩の役割は、のぶをずっと見守り続けることだと思っていました。だから最後まで、のぶの話に、のぶと嵩、二人の話にしてほしいと願っていました。ふたりの最後のシーンを撮ったとき涙が出そうになりました」

 どんなラストシーンになるのか楽しみにしたい。ところで、やなせたかしと柳井嵩には大きな違い――暗い嵩を演じてきて「1年間うじうじしっぱなしで大変苦しかったです」と明かした。影響は受けなかったかとある記者が聞くと。