「やなせさんからエネルギーを摂取する」役作りのルーティン

「よく落ち込むようになりましたね(笑)。もともと学生時代はネガティブでしたが、大人になってからは落ち込むということをしてこなかったような気もしていたんです。それが嵩を演じてからは落ち込むんですよね(笑)。

 そういうとき、僕はやなせさんを見るようにしてました。やなせさんは本当に明るい方なので、やなせさんからエネルギーを摂取して柳井嵩に臨む。それが日々のルーティンになっていました」

 やなせさんの明るさを支えにする一方で、やなせさんのなかの暗い部分にも気づいた。

「やなせさんが『アンパンマンのマーチ』を作詞するなかで、子供向けじゃないと言われたところは命についての言葉でした。僕の書く歌詞も暗すぎるって言われることがあって。

 僕はポジティブなことには必ずネガティブなことがつきもので、ネガティブを書かないことにはポジティブも伝わらないと思っています。だから、やなせさんの創作のなかに、自分の感覚は間違ってないんだなと支えにもなる言葉がたくさんありました。僕のやっていることを、天国のやなせさんが大丈夫だよと肯定してくださっている感覚が、おこがましいかもしれないですが、あって。やなせさんの言葉に救われました」

 これまで演じるときは常に客観的に臨んでいた北村さんだが、「一年もの長い間、ひとりの人間を演じたことで、客観性を大事にしつつも、どうしてもここは主観になってしまう瞬間が何度もあり、そういう瞬間にすごくいいシーンが出来上がる成功体験もして、有意義で贅沢な1年間だったと思う」と満足そうだった。

 やなせたかしに導かれながら、北村匠海にしかできない柳井嵩を演じきった。

「何のために生まれて」――嵩役・北村匠海が“アンパンマンの問い”に見つけた、自分だけの答えきたむら たくみ/1997年11月3日、東京都生まれ。俳優、アーティスト。2008年、「DIVE!!」で映画デビュー。11年、4人組DISH//を結成。映画『君の膵臓をたべたい』(17年)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作に『東京リベンジャーズ』シリーズ、『明け方の若者たち』『法廷遊戯』『悪い夏』など、ドラマ『ナイト・ドクター』『風間公親 -教場0-』『星降る夜に』『アンチヒーロー』など、Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』など多数。短編映画『世界征服やめた』では初監督をつとめた。 写真提供:NHK

「何のために生まれて」――嵩役・北村匠海が“アンパンマンの問い”に見つけた、自分だけの答え

連続テレビ小説『あんぱん』
作品情報

「何のために生まれて」――嵩役・北村匠海が“アンパンマンの問い”に見つけた、自分だけの答え

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。
【作】中園ミホ
【音楽】井筒昭雄
【主題歌】RADWIMPS「賜物」
【語り】林田理沙アナウンサー
【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 高橋文哉 大森元貴 妻夫木聡 松嶋菜々子 ほか
【放送】2025年3月31日(月)から放送開始