「何のために生まれて」――嵩役・北村匠海が“アンパンマンの問い”に見つけた、自分だけの答え

「楽屋ではなく前室にいる」と決めた、その理由

「他の作品でも、一人になりたいとき以外は楽屋に入らないこともあります。もともと僕は、楽屋にいて落ち着くタイプではないんです。基本的に、作品において、役者もスタッフの一人だと僕は考えていて、常に話し合っていきたいタイプなんです。

『あんぱん』は撮影を含むと1年という長い期間をかけますから、おそらく最終的に人間関係が重要になっていくのでないかと思っていました。人と人との会話の中で日々を生み出していく作業にきっとなるだろうという気がしていたんです。

 だから前室にいて、とにかくいろんな人と、作品の話じゃなくてもいいし、なんなら『今日雨すごいらしいよ』とかそういうなんでもない会話でもいいから、会話を続けようと思いました。

 そうしたら、自然と今田さんもいるようになって、気づけば河合優実さんや原菜乃華さん、高橋文哉君、大森元貴さんまで参加してくれて。基本的には僕ら同世代のキャストはみんな前室にいるようになったんです。

 河合さんが今田さんは守り神のように前室にずっといたと言っていましたが、今田さんはもしかして僕と足並みを合わせてくれたのかなと思って。のぶと嵩が最初は心の距離があったものが徐々に近づいていって同じ家で生活していくような物語とまさにリンクしている気がして。

 最初はただ前室に居続けようと意気込んでいただけでしたが、最近になって、僕がやったことは間違いではなかったかもしれないと思っています」

 前室ではどんなことを話していたのか。

「前室での今田さんとの会話は『今日何食べる?』などです(笑)。一年間一緒にいると喋ることもなくなってきて……。『今日何食べるん?』と今田さんは言うわけですよ。僕が『何かな? あれかな』って応える。役を離れたときのそんな時間も、役を演じるうえでとても大事な一つのピースだったと思います」

 みんなのチームワーク――それも穏やかな何気ない日常会話が、『あんぱん』のムードを形作っていった。北村さんは出演者がオールアップすると似顔絵を描いたりもしていたという。