AI開発競争、このままでは米中への勝ち目はない

 エネルギー政策は、当該国の産業に重要な影響を与える。電力供給が制約になると、わが国が世界的なAI開発競争に生き残れなくなる恐れがある。現在、米国と中国はAI関連分野での覇権を競っている。両国ではAIデータセンターが急増し、サーバーの稼働、冷却向け電力需要はうなぎ上りだ。

 国際エネルギー機関(IEA)によると、30年の世界のAIデータセンターの電力需要(消費量)は24年に比べて倍増する見込みだ(25年4月時点)。この勢いに対応するために、米国でも中国でも洋上風力発電を増やしている。

 24年の中国の洋上風力発電コストは、政策補助金などで10年対比71%減だ。中国はデータセンター運営規格で世界をリードするため、積極的に低炭素型の発電技術に取り組んでいる。

 24年、米国では統計開始後初めて、風力と太陽光由来の発電量が石炭火力を上回った。米国エネルギー情報局は、26年も風力発電の増加を予想する。

 AIデータセンターの電力需要をどう満たすかは、洋上風力をはじめとする「再エネ推進競争」でもある。仮に、今回の三菱商事の撤退で洋上風力発電が減少すると、わが国はAI利用だけでなく世界的なクリーンエネルギー利用競争にも後塵を拝する懸念がある。

 もう一つ見逃せないのは、電力料金が上がる懸念だ。ウクライナ戦争をきっかけに、世界的に天然ガスの価格が上昇した。中東情勢の緊迫化でタンカーによるエネルギー資源の物流体制も不安定化している。円安が進み、わが国の天然ガス輸入コストは増え、電力料金は上がっている。今後、電力価格には一段と上昇圧力がかかる可能性は高い。

 現在、わが国では物価上昇ペースが名目賃金を上回っている。電力料金まで上がれば、冷暖房を自由に使うことすら難しい世帯が増えるだろう。猛暑が当たり前となった日本の夏、熱中症対策として冷房は欠かせない。しかし高齢者や貧困世帯を中心に、安心・安全な日常生活を送ることが難しくなるかもしれない。3海域からの三菱商事撤退は、わが国の経済安全保障、国民生活をも岐路に立たせたといっても過言ではない。