洋上風力発電、三菱商事の見通しは甘かったのか
世界の電力関連分野は大変革期を迎えている。地球温暖化を食い止めるため、脱炭素推進は長期的な課題だ。一方で、AI向けの電力需要は拡大することが予想される。カギを握るのは再生可能エネルギーであり、その柱の一つが洋上風力発電とみられていた。
東日本大震災以降、わが国では原子力由来の電力供給が減少した。代わって、石炭や天然ガスを使った火力発電は増えた。現在、わが国の発電源の約7割は火力発電だ。
ただ、火力発電には地球温暖化などの環境問題が付きまとう。加えて、わが国は天然ガスや石炭を輸入に頼っている。円安の進行で天然ガスの輸入額は増加し、貿易赤字の一因になっている。脱炭素を推進するという国際世論の要請に照らしても、洋上風力発電の重要性は高まっていた。
21年12月に三菱商事をはじめとする企業連合が、圧倒的な低コストで3海域の洋上風力発電案件を落札し、多くの注目を集めた。一部では、事業の採算計画が甘いとの見方もあったほどだ。とはいえ政府内部では、有力な総合商社が内外企業を取りまとめることで、洋上風力発電が増える起爆剤になるとの期待は高かった。
しかし、三菱商事の見通しは甘かった。特に、ウクライナ戦争や中東情勢による物価上昇、金利上昇のあおりを受け、風車などの資材価格が急上昇した。その結果、多額の違約金を払ってでも、プロジェクトから撤退せざるを得ない状況に陥った。
実は洋上風力発電に手をこまねいているのは、三菱商事だけではない。海外でも類似のケースが起きている。例えば、デンマークの風力発電大手のオーステッドも、想定外のコスト増で減損費用を計上した。スペインでは風況の変化により洋上風力発電の持続性に対する懸念が高まった。欧州全体で見ると、洋上風力よりも太陽光発電を重視する国が増えている。フランスやスロバキアは原子力発電を再評価し始めている。
わが国は、洋上風力発電構想を続けるか。ペロブスカイト太陽電池など他の発電源との組み合わせを見直すか。極めて重要な岐路を迎えている。