メンバーに、自由に肩書きをつけてもらう
お金をかけずにリソースを増やす方法は、メンバーに自由に肩書きをつけてもらうことです。そうすると、肩書きがリソースのように機能します。
「えっ、肩書きって会社で決められているものじゃないの?」と思われるかもしれません。
もちろん、会社で決められた正式な肩書きはあります。
それとは別に、メンバーに自分でユニークな肩書きをつけてもらうのです。
実際、そうした肩書きをつけている人はいます。たとえば、米国ヤフーのある広報担当者は、自分のことを「ヤフー・エバンジェリスト」と呼んでいました。
マトリックスグループのある受付スタッフは、自分のことを「第一印象ディレクター」と名乗っています。また、IBMには「データ探偵」「クリエイティブ・テクノロジスト」といった肩書きも存在するようです。面白いですね。
このように、自分でつけた肩書きを「セルフ・リフレクティブ・ジョブ・タイトル」と言います。日本語に訳すと、「自分を表した肩書き」です。
これにはどんなメリットがあるのでしょうか。じつは、メンバーに自分の仕事を表した肩書きをつけてもらうと、本人の疲弊感が減るという研究結果があるのです[2]。
肩書きづくりで自信と誇りをもて、チームワークが高まる
では、なぜ肩書きをつけると疲弊感が減るのでしょうか。
セルフ・リフレクティブ・ジョブ・タイトルに関する研究によれば、疲弊感が減る理由は次のようなメカニズムによります[3]。
まず、メンバーは自分に自信をもち、自分の仕事に誇りをもてるようになるといいます。自信と誇りをもてれば、多少のことではへこたれなくなり、疲れにくくなります。
次に、メンバー間でそれぞれの肩書きを共有することで、お互いのことがよりわかるようになります。「クリエイティブ・テクノロジスト」という肩書きをつけたメンバーがいたとしたら、「ああ、この人は、創造性とテクノジーを大事にしているんだな」とわかります。
お互いの理解が進むと、意見を言いやすくなります。そんなチームで働いていると、人間関係が改善されて疲れを感じにくくなるのです。そして最終的にチームのウェルビーイングが高まります。
肩書きづくりの3ステップ
では、実際にチームでどのように実践するとよいのでしょうか。チームビルディングのひとつとして、自分の仕事の価値を表現する肩書きを自由につけてみるのがおすすめです。
組織で決められている公式の肩書きではなく、あくまでも非公式な肩書きとしてそれを使うのです。
ステップ1 自分の仕事をユニークに表現する肩書きをブレーンストーミングのようにいろいろ出してもらい、1つ選んでもらう。
このとき、「ヤフー・エバンジェリスト」「データ探偵」などの参考例を示すと、気軽にアイデアを出しやすくなります。
ステップ2 ワイワイ、ガヤガヤと話し合って、その肩書きをメンバー間で共有する。
このステップがポイントです。自分の肩書きをメンバー間で共有することを通して、自分らしさを表現すると同時に、ほかのメンバーへの理解が進みます。
ステップ3 どのようなタイミングでその肩書きを使うとよさそうかを議論する。
この非公式な肩書きは、チーム内で使うぶんにはまったく問題ありませんが、顧客はじめ外部の人たちのなかには「ふざけたタイトル!」というネガティブな印象をもつ人がいるかもしれません。
したがって、どのような状況でその肩書きを使うとよいかを、あらかじめ議論しておくとよいでしょう。たとえば、「社内だけでこの肩書きを使う」といったルールを定めるのです。
過酷な職場でも効果が高い、肩書きづくり
とくに、仕事量が過大、精神的にきついといった過酷な環境にある職場において肩書きづくりが効くことが、多くの事例研究によってわかっています[4]。
アメリカにメイク・ア・ウィッシュ財団というNPOがあります。そこでは、病で命の危機にさらされている子どもたちの願いをかなえてあげるサービスを届けていますが、需要が大きいのに慢性的な人手不足で、現場はいつも疲弊しています。
もうすぐ死ぬかもしれないという子どもの願いを無視するわけにはいきません。そんな子どもたちの姿を日々目の当たりにする心労も相当なものです。こうした過酷な負担を和らげるのに肩書づくりが役立っているのです。
このNPOでは、メンバーは公式の肩書きとは別に、自分の役割を表すクリエイティブで面白い肩書きをつけています。
たとえばCEOは、人々に笑顔をもたらすという願いをこめて、「願いの妖精のゴッドマザー」と名乗っていますし、COOは「ドルとセンスの大臣」と名乗っています。
また、PRマネジャーは、「マジック・メッセンジャー」「ハッピーニュースの伝令」といった肩書きを自分につけています。
あるメンバーは、みんながこの肩書きを面白く受け入れていることで、「自分はここにいていいんだ」という気持ちになったと言っています。そして、同僚との人間関係もよくなり、周りから必要なサポートを受けられていると。
研究チームが、このNPOのメンバー22人にインタビューを実施してみたところ、85%の人が、「自分でつけた肩書きは、疲れを和らげるのに役立っている」と答えました。
こんな例もあります。病院のあるチームで肩書きづくりを行ってもらいました。
先述した3つのステップをワークショップ形式で議論し、医師や看護師らにユニークな肩書きをつけてもらったのです。
その5週間後、参加者は自分の仕事により誇りをもてるようになっていました。
さらに、ワークショップ以前と比べて、疲弊感が1割軽くなっていることがわかりました。肩書きを工夫することで疲れが抜けたのです。
自分の仕事の好きなところを考える
肩書きのアイデアをうまく出せないメンバーがいるかもしれません。そのようなときには、こんなふうに働きかけてみましょう。
自分の仕事のうち、もっとも大事にしているところ、もしくは好きなところは何かを考えてもらうのです。たとえば、「サービスを届けて、お客さんが笑顔になる瞬間が好き」と思ったら、そこから自分の肩書きを連想してみるのです。
たとえば、「笑顔クリエイター」「喜びデザイナー」「ハピネスメイカー」などが考えられます。「こんなふざけた肩書きで大丈夫かな」と思うくらい楽しい肩書きのほうが効果的です。
*この記事は、『職場を上手にモチベートする科学的方法――無理なくやる気を引き出せる26のスキル』(ダイヤモンド社刊)を再編集したものです。
[2] Grant, A. M., Berg, J. M., & Cable, D. M. (2014). Job titles as identity badges: How self-reflective titles can reduce emotional exhaustion. Academy of Management journal, 57(4), 1201-1225.
[3] 2に同じ。
[4] 2に同じ。