政府の対策予算には、件の2019年決定「就職氷河期世代支援プログラム」まで、“氷河期”という言葉が使われていなかった。「若年対策」「再チャレンジ支援」などがその代わりとなっている。氷河期という言葉が入っていないため、「何もしなかった」と勘違いする人が多いのだ。

「氷河期」も「フリーター」も民間の造語であり、軽々にこうした言葉を使用することに政府はためらいを感じていた。また、これら流行り言葉に政府がお墨付きを与えることで、周囲が差別意識を持つことや、本人に屈辱感を与えることなども考えられ、利用を差し控えていただけなのだ。それがこんな誤解を生むとは……。

なぜ官僚たちは的外れな批判に
無言で通すのか?

 では、こうした的外れな批判に、政府は反論をしたか?

 答えはノー。まったくしていない。官僚の目の前で「何もしなかった」論が出たときでさえ、無言でスルーしているのだ。以下は、氷河期世代対策の予算を検討するための審議会での、ある委員の発言だ(傍線は筆者)。

就職氷河期世代は、本来若い時期に支援していれば、ここまで問題が大きくなることはなかったと思っておりまして、今日まで中年になってしまっているわけですが、引きずってしまったことで支援が重要だということは改めて申し上げたいと思います。以上です〉(第38回労働政策審議会人材開発分科会 2022年9月5日議事録より、堀有喜衣委員=独立行政法人労働政策研究・研修機構所属の発言)

 まさに、マスコミで繰り返される「何もしなかった」論が、厚労省のお膝元の審議会で、官僚の面前にてなされていた。同席した私は思わず不規則発言で反論をしている(議事録から削除)。

 にもかかわらず、官僚たちは無言で粛々と議事を進行していた。この風景を見て、私は切ない思いに駆られた。氷河期直後の10年間に、汗を流して走り回った官僚・地方政府の人たちの努力をよく知っていたからだ。なぜ、官僚たちは、自身の先輩の努力さえ貶めるようなこうした批判に、無言で通すのか。

 それは、彼らの置かれている立場を理解するとわかる。