政治家が喜び官僚が楽できる
氷河期世代対策の現実

 彼らは忙しい。なかんずく、厚労省の官僚の多忙さは半端ではない。日本が今、直面している最大の社会問題=少子化と高齢化のどちらもが、この省の主務だからだ。この省だけで、利払いなどを除いた純粋な国家歳出の過半を占めるといわれる。

 にもかかわらず、官僚の数は総定員法に縛られて増やすことができない。だから、ブラックを極める労働環境で、それは、同省出身のコンサルタント、千正康裕氏の著書『ブラック霞が関』(新潮新書、2020)にも詳しい。

書影『「就職氷河期世代論」のウソ』(海老原嗣生 扶桑社新書、扶桑社)『「就職氷河期世代論」のウソ』(海老原嗣生 扶桑社新書、扶桑社)

 こうした日常の中で、政治家はマスコミ受けする話、票が掴めそうな話をどんどん議題に上げる。内閣も経済財政諮問会議などの「お偉いさん」をそろえた会議で、現場とはかけ離れた見栄えのいい政策を発表し続ける。それらを現実に着地させるために、官僚たちは、法案を作り、地方政府や関係各所と調整し、そして、識者を集めた審議会で了承を得る。こんな多忙な毎日なのだ。

 この中で、「氷河期世代対策」は骨休めができる数少ないテーマである。通常だと、イデオロギー、労使、貧富、こうした対立軸があって法案作りには時間がかかるが、氷河期関連だけは、反対者なく簡単に通るのだ。しかもその中身は、20年来重ねてきた多数の施策の焼き直しに過ぎないから、実施場面でも楽ができる。

 つまり「氷河期世代対策」とは、官僚たちにとって、忙しい毎日の中で、格好の骨休めなのだ。だから、この課題は、政府の中で永遠に重宝され続ける。それが氷河期問題をこじらせた2つめの理由と言えるだろう。