小泉農相が備蓄米放出もコメ争奪戦は深刻化

 コメ価格が再上昇している要因の一つに、JAがコメ生産農家に支払う「概算金」の上昇がある。わが国では、JAが農家の所得安定を目的に、前もって概算金としてコメ代金を支払っている。仮渡し金とか、前払い金と呼ぶこともある。

 概算金の水準は新米の価格に影響する。今年の新米の収穫期、各地のJAは軒並み概算金を引き上げた。中には、2段階で概算金を引き上げたJAもあるようだ。当初に示した低い概算金の水準では、思ったようにJAにコメが集まらなかったため、概算金を引き上げざるを得なかったのだ。

 近年、わが国のコメの流通経路は一段と複雑化している。元々、5次にもわたるコメの卸売り階層があり、JA以外の流通経路として、自主流通米がある。米価上昇をビジネスチャンスとみたIT企業やスクラップ業者などが、コメの流通に新規参入したことで、実態はさらに複雑になっている。

 生産者である農家としては、少しでも高値でコメを買ってくれる業者に売りたい。これまでよりも川上の段階で値上がりを期待する生産者は増えるだろう。そうなると、新米を売り控えたり、概算金の積み増しが必要になることが増えると考えられる。

 小泉進次郎農林水産相は、随意契約による備蓄米放出を迅速に決定した。早場米が出始める7月半ばから、小売店のコメ販売棚を備蓄米で埋め尽くすためだった。

 しかし、精米能力や備蓄米の倉庫運営、トラック運転手不足などの問題に加え、従来よりも川上の段階から供給を絞る動きが増えた。

 その結果、コメの価格は再上昇しつつある。コメ卸売業界では、異業種を巻き込んだ新米の“青田買い”が起きており、コメの争奪戦は深刻化しているもようだ。