経営や事業と歩調を合わせる
キヤノンのデザインが大切にしていることとは

キヤノン理事、総合デザインセンター所長。キヤノン入社後、「EOS-1V」をはじめカメラ、ビデオのデザインを多数手掛ける。1998年にキヤノンUSA赴任。シニアビジネスプランナーとして新規事業立ち上げを担当。帰国後、インターフェースデザインの部門長としてUX開発の基盤を構築。2012年、総合デザインセンター所長に就任し、キヤノングループのデザイン統括とともに事業テーマの早期提案や将来ビジョン活動に参画。iFデザインアワード2014審査員、24年度JEITAデザイン部会長、25年度グッドデザイン賞審査委員、JIDA(公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事。
Photo by YUMIKO ASAKURA
勝沼 デザイン部門の役割はどんどん拡張していますね。その分、経営との方向性の共有もますます重要になってくると思います。経営陣とはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。
石川 経営陣とは直接話をして、会社が進む方向を共有した上で、デザイン部門が担うべき役割を見極めています。デザインの機能は、常に会社全体の方針に連動すべきであるというのが私たちの考えです。
もちろん、即座に一致させるのは容易ではありませんが、その整合性を高めるために適切な人材を集め、個人とチーム全体のスキルを継続的に上げていかなければなりません。地道な取り組みですが、必要不可欠なことです。
勝沼 経営陣との関係づくりで特に気を付けていることは何ですか。
石川 信頼されることが何より大切です。キヤノンの経営陣はデザインに造詣が深く、デザインに関する具体的な指示がある場合が少なくありません。一方で、医療機器など新しい分野の製品デザインを一任されることもあります。それは「うちのデザインチームなら任せられる」という信頼の証しであると私は捉えています。私たちはその期待に応えるべく、専門性と責任感を持って業務に取り組む必要があります。
勝沼 経営陣との対話に加えて、現場の事業部門との協働も欠かせないと思います。事業部門とはどのような関係を築いているのでしょうか。
石川 各事業において、デザイン部門が果たすべき役割を明確にした上で、戦略的なデザイン活動を展開しています。キヤノンは事業部門、とりわけ設計チームとデザインチームの距離がとても近いので、方向性を正確に把握することができます。設計とデザインの協働の文化が確立していると言っていいと思います。
勝沼 デザイン部門が事業にどれだけ貢献しているか――その成果をどう証明するかは、多くの企業が悩むところです。石川さんは、それについてはどう考えていらっしゃいますか。
石川 事業が成功し、事業部門からデザインが評価されること。それこそが成果であると考えています。デザインの成功は事業の成功と不可分であるということです。ある事業のプロジェクトがうまくいって、「デザイナーたちが貢献してくれた」と言ってもらえることが、デザインが役に立ったということの何よりの証明だと思います。
勝沼 デザインと知的財産の関係も重要になってきます。知財部門とはどのように連携しているのでしょうか。
石川 デザイン部門と知財部門は、いずれも経営直轄の組織として、非常に密接な関係にあります。日常的に連携しながら、「どのように意匠権を取得するのが効果的か」といった観点で、戦略的な権利化に向けてアイデアを出し合っています。
また、総合デザインセンターの中にも知財を専門とするメンバーがいて、デザインの造形などについて特許化が可能かどうかをチーム内で検証する体制も機能しています。