適度な競争が力を育てる
プロスポーツに通じるデザイン組織の高め方
勝沼 近年、企業によっては「CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)」という役職を設け、デザインを経営の中枢に位置付ける動きが広がっています。企業のデザイン部門を率いる立場として、責任者にはどのような資質が求められるとお考えですか。
石川 卓越したデザインの専門性とイノベーションへの情熱、そして信頼に応えるために、変化する市場や開発状況を誤りなく把握するコミュニケーション力も必要です。また、直接的な対話以外から変化を感じることもあります。それを察知できるよう、常にアンテナの感度を高めることも求められます。
もう一つ、私がとても重視しているのがチームマネジメントです。キヤノンは横浜キヤノンイーグルスというラグビーチームを持っていますが、スポーツチームのマネジメントとデザイン組織のマネジメントには通じるものがあると私は考えています。
スポーツチームと同様に、デザインチームでも現場で活躍するのは個々のメンバーです。メンバーのスキルやモチベーションが高まれば、チーム全体の力も向上していきます。そこで必要なのは切磋琢磨する風土です。実力のある先輩の存在や同僚間の励まし合いがあって、その環境の中で一人一人が実力を発揮する。会社としても、スキルを学ぶ機会を提供し、個人の成長を後押ししています。そうした環境の中で力を付けていくことで、仕事の幅が広がり、プロデザイナーとしてのポートフォリオも充実します。
才能のある人材を見つけて育てていくという点でも、デザイン組織はプロスポーツチームと通じるものがあると感じています。
過度な競争を求めるつもりはありません。それぞれが自分を磨くことのできる緩やかな競争環境があればいいと思っています。その競争によって、チームが成長し、みんなで一緒により大きなゴールを目指していくことができる。そんな組織が理想だと思います。

多摩美術大学卒業。NECデザイン、ソニー、自身のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中心に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を行う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC入社、デザイン本部長として全社デザイン統括を行う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部門に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。
Photo by YUMIKO ASAKURA
勝沼 石川さんはJIDA(日本インダストリアルデザイン協会)の理事も務めていらっしゃいますよね。社外の活動に関わることで、どのような効果を感じていますか。
石川 社外の団体に関わることで、まず、自社のデザインを客観的に見る視点が得られるようになりました。それによって自分自身の視野が広がったと感じています。
また、JIDAデザインミュージアムセレクションから過去の優れたデザインに触れることで、日本のデザインが持つ文化的な価値を改めて認識すると同時に、それを広く伝えていくことで、価値を高めていくことにも貢献できると思っています。
キヤノン以外に目を向けることによって、「キヤノンらしさ」がより分かるようになる。それが社外の活動に関わる大きな意義であると考えています。