「♯(シャープ)型人材」の定義と構造について

「成長を軸とした安定性」を実現するための新たな人材モデルとして、私が名づけた「♯(シャープ)型人材」とは具体的には、以下のようなイメージです。

 まず、専門スキル(縦2軸)のうち、1軸目は、コアとなる専門スキルです。経理、マーケティング、人材育成、研究開発など、キャリアの土台となる専門領域がこれにあたります。基本的に、20代、30代で、自身が担当する仕事をベースに資格取得のプロセスと合わせて身につけていくことがお勧めです。

 縦2軸目は、1軸目の専門スキルと関連性の高い、あるいは、専門スキルを補完するスキルです。例えば、1軸目が経理ならば、2軸目をIR(財務広報)領域とするなどです。一方、関連性にこだわらず、自身が好きなことや興味があることを2軸目にするケースも考えられます。関連性のない領域へのチャレンジの場合、ハードルは高くなりますが、リスク分散効果は高まりますし、好きなことに取り組むので、スキル獲得へのモチベーションも高まるでしょう。

 次に、横断スキル(横2軸)のうち、1軸目は「社会人基礎力」です。異なる専門性を持つ人々と協働し、共通の目標を達成するために必要な、汎用的な能力(ポータブルスキル)です。主体性、実行力、課題発見力、計画力、傾聴力、規律性などが含まれます。

 横2軸目は「変身力」です。「変身力」とは、変化に対応し、新たな視点や価値観を取り入れ成長につなげる力です。私は、この変身力は、パラレルキャリアなど社外での活動を通じて磨かれると考えています。所属組織を越境し、異なるコミュニティでの交流を通じて取り込んだ新しい知見や視点が、自身の変容や組織のイノベーションへつなげる力となります。

「♯(シャープ)型人材」は、「T型人材」を単純に深化させたものではありません。2つの専門スキルがそれぞれ独立した軸として存在しつつ、2つの横断スキルによって相互に補強し合い、新たなシナジーを生み出す点が特徴です。例えば、ソフトウェアエンジニアとして高度な開発能力を持ちながら、同時にデータサイエンティストとしての知見を活かし、さらにチームをまとめ上げるリーダーシップと、常に最新の技術トレンドを学習し続け、組織変革につなげられる人材です。