企業は、個人の気づきを尊重していくこと

 2つの専門スキル(縦2軸)を2つの横断スキル(横2軸)でつなぐ「♯(シャープ)型人材」になることができれば、個人にとっては矛(攻め)と盾(守り)を持つようなものです。所属組織内での貢献の可能性が高まることに加えて、キャリアの転機を自分の時間軸で選べますし、会社が大規模な希望退職募集を行う事態が発生しても、慌てずに冷静な判断をくだせます。

 私自身、58歳のときに、勤務先の企業で大規模な希望退職募集が打ち出され、希望退職という道を選びました。再就職活動では、年齢と経験で門前払いとなるケースが多く、失業状態が続くことも覚悟しました。しかし、幸いにも、大学教員という希望の仕事に職を得ることができました。完璧なレベルの「♯(シャープ)型人材」には達していなかったものの、2つ目の専門スキル(カウンセリングスキル)と2つ目の横断スキル(変身力)が、難局を乗り越え、キャリアチェンジを実現する助けとなりました。

 個人の成長のためには、組織のサポートも必要ですが、個人はそれを期待し過ぎずに、自身でできることに少しずつ取り組むことです。現段階で社外で通用する専門スキルがない場合は、まずは、「T型人材」となることを目指しましょう。

 20代では社内で学び尽くすことを最優先にすると良いと思います。社内は学びの宝庫だからです。会社の教育支援制度をしっかり把握し、自分自身が成長したい思いを、メンターや上司に率直に伝えることが重要です。社内での学びは、世代間コミュニケーション力を高める機会ともいえます。さまざまな先輩社員の良い点を貪欲に自身に取り入れる姿勢も大切です。組織内にキャリアカウンセリング制度があれば、その活用もお勧めです。

 そして、1つ目の専門スキルがある程度固まってきた30代で、武者修行的に社外の風に当たりましょう。特にお勧めは個人にも組織にもメリットをもたらす「活私奉公型パラレルキャリア」に取り組むことです。世の中にはさまざまな価値観があることや仕事の進め方の違いに気づくはずです。海外旅行者が日本を離れたときに、海外の魅力を感じると同時に日本の良さに改めて気づくことがあるように、社外で活動をして初めて、所属組織の良さや改善した方が良い点に気づくことがあると思います。社外での経験からのちょっとした気づきを、自身の所属組織での仕事に反映させていくことが大切です。

 一方、組織は、個人の社外での活動を後押しし、個人の気づきを尊重し、成長を促していく――それが、個人にとって働きがいがあり、安定性のある企業の姿勢だと私は考えます。