しゃべりながら次第にヒートアップしてきたB役員の話は、沢田さんの人間性にまで及び、社員たちの愚痴、最終的には会社の経営方針への不満にまで広がりました。B役員の話はなかなか止まらず、彼女は立ったまま2時間以上もいろんな話を聞いていたそうです。
簡単には怒りが収まりそうにないB役員に対し、沢田さんはどう対応したらよいかわからず、そのときの状況に耐えきれなくなってしまって、何度も謝罪したということでした。
結局、B役員から「もう帰っていい」と言われてやっとその場から解放され、通常の業務に戻ることができたそうです。しかし、そもそも本当に自分が鍵をかけ忘れたのか、デスクの上には菓子折があったのか、これらのことについては決定的な証拠がなく、わからないままだったということです。
以前にも今回のことと似たような事件があったようで、沢田さんの前にB役員の秘書をしていた女性も、同じように鍵のかけ忘れや資料、貴重品がなくなったなどと騒ぎ立てられ、別部署へ異動になったようでした。
部下を追い詰める上司の
心理的背景とは?
B役員にはどのような心理的背景があるのでしょうか。
彼は、劣等コンプレックスを持っていて、自分自身がそれに振り回されている印象があります。劣等コンプレックスとは、自分が他者と比較したときに劣っていると感じたり、自己肯定感に不足感や疑いを持っていたりする状態です。B役員は、一代で今の会社を築いた創業社長である父親に、強い劣等感を抱いているのでしょう。
彼は、経営方針への不満を度々口にしながらも、社長の方針にはずっと逆らえず、それどころか会議で仕事の不手際などを指摘されるなど、父親からコンプレックスを刺激されるような環境に身を置いています。
B役員は、同社の社員、なかでも自分に逆らえない沢田さんのような立場の人に対して、自分が上位であることを誇示していないと、自分を保てないのだと思われます。父親に対して抱く“攻撃心”が抑えきれなくなったとき、怒りのはけ口や機会を、自ら作り出している可能性すらあります。
そのようなとき、怒りの矛先となるターゲットにされてしまうのが、沢田さんのようなおとなしいタイプだといえるかもしれません。