臓器提供の同意率も変わる
デフォルト設定の威力

 私たちは情報量が多いのが苦手です。だから、多くの情報を前にして面倒になると、自動的にヒューリスティック(編集部注/見た目や特徴をもとに物事の判断を行うこと。ステレオタイプなバイアスの影響を受けやすい)を稼働させて手短に処理しようとします。

 しかし面倒だからといって、何でもかんでもばっさり切り捨てられていては、社会にとって不都合なこともあります。

 そこで、そうされないようにする有効な手段が「デフォルト」、すなわち、特定の選択肢をあらかじめ設定しておき、利用者がNOを選ばなければそのまま実行されるというやり方です。

 その代表例として知られるのが臓器提供の意思表示です。提供してもよいという人が意思表示する方式(オプトイン)の国では同意率が低いのが現状ですが、提供したくない人がそれを意思表示する方式(オプトアウト)の国では100%に近い同意率になっており、両者にたいへん顕著な違いがみられます。

同意率を上げるための「デフォルト」は?同書より転載 拡大画像表示

 またネット通販などでは、購入するときにそのままだとメールマガジン登録となり、不要であればチェックを外すというケースがあります。

 こうした違いが意思決定に大きな差となって表れるのです。

トイレからコロナ対策まで
街中に溢れているナッジ

 ナッジといえば、有名なものにアムステルダムのスキポール空港の男性トイレがあります。

 ここの小便器には小さなハエの絵が描かれています。こうすると利用者はおのずとそのハエめがけて用を足すようになるため、トイレが汚れず、掃除の手間が省ける――。