全ての社員がデザインの視点を持つべき
その理由

勝沼 ブランドは、ユーザーに認知され、理解されて初めてブランドとなります。つまり、ユーザーのインサイトに確実にヒットしなければならないということです。その点におけるデザインの役割についてはどうお考えですか。

瀬戸 ピーター・ドラッカーは「企業にとって最も重要なのはイノベーションとマーケティングである」と言いました。

 私は、ユーザーに理解してもらうことを重視するなら、「マーケティング」よりもむしろ「デザイン」の方が重要なんじゃないかと考えています。マーケティングはどうしても企業の視点が起点になりがちですが、デザインはユーザーからの視点を起点にするからです。LIXILのデザインチームも、その出発点として「プリサーチ」を重んじています。隠れたニーズや社会の変化の兆しを丁寧にすくい取り、そこから生まれるインサイトを形にしていきます。

勝沼 デザイナーとしては素晴らしいと思います。ただ、そうした考え方はどうしてもデザインが身近な一部の部署や人にとどまりがちではないでしょうか。

瀬戸 LIXILでは、こうした考え方が社内全体に少しずつ浸透してきていると感じています。

 もちろん、全ての社員が美的センスやデザインスキルに優れているわけではありません。それでも、「ユーザーにどんな価値を届け、どう実感してもらうか」という視点を持つことは誰にでもできる。

 私は、その視点こそがデザインであり、そういう意味で「全ての社員がデザイナーであるべき」だと考えています。

勝沼 LIXILはもともと5社が合併してできた会社で、その後もさまざまな会社を買収してきました。それぞれのブランドは今も残っていますよね。それをLIXILというブランドでまとめるのは難しかったのではないでしょうか。

瀬戸 おっしゃる通りです。INAX、トステム、アメリカンスタンダード、グローエなどは今もグローバルブランドとして展開しています。また、途上国向けの安価なトイレのブランドとしてSATOもあります。

 私たちはLIXILブランドを「太陽」、その周りに専門ブランドが「惑星」として回っているイメージで捉えています。この太陽がコーポレートブランドアイデンティーに当たります。それを定義し、さらに各ブランドとの関係を設計するのが、ポールが率いる「Design & Brand部門」の役割です。デザインに対する経営の意志もそこに反映されていると考えています。

破壊的イノベーションもデザインから、LIXILのトップが語る「経営の意志」を伝えるデザインの力とは――LIXIL 代表取締役社長兼CEO・瀬戸欣哉氏インタビューKINYA SETO
LIXIL 取締役 代表執行役社長 兼 CEO。東京大学経済学部卒業後、83年住友商事入社。米国駐在後、住商と米グレンジャー・インターナショナルが出資し、間接資材の通販サービスを手がける住商グレンジャー(現 MonotaRO)を設立。社名を株式会社MonotaROに改名し、2001年に代表取締役社長に就任。同社を急成長させ、09年に東証一部上場。Zoro Tools(現 Zoro Inc.)、W.W.グレンジャーなどで要職を歴任。MonotaROをはじめ、国内外において10社以上の会社を起業。16年1月LIXILグループ(現LIXIL)代表執行役社長兼CEOに就任。18年10月に退任したが19年6月の株主総会で現職に復帰。
Photo by YUMIKO ASAKURA