勝’s Insight:経営者がデザインを「経営資源」として語るとき――LIXILが示すブランドづくりの新しい形

破壊的イノベーションもデザインから、LIXILのトップが語る「経営の意志」を伝えるデザインの力とは――LIXIL 代表取締役社長兼CEO・瀬戸欣哉氏インタビューPhoto by YUMIKO ASAKURA

<インタビューを振り返って>

 瀬戸さんとの対話の中で私が強く感じたのは、経営課題とデザインという営みがしっかり結び付いているということだった。

 製品やサービスは常にコモディティー化に向かう。だから、企業は絶えず自社商材の差別化を目指していく必要がある。それがなければ、企業が持続的に成長していくことはできない。では、どのように差別化を図っていけばいいか。その問いに対する一つの答えが、LIXILにおいては「デザイン」だった。Chief Design & Brand Identity Officerであるポール・フラワーズさんのデザイン思想を、私なりに整理すると次のようになる。

 プロのデザイナーには、与えられた条件の中で製品のデザイン性を確実に高めるスキルが求められる。しかし、それだけでは十分ではない。製品開発の初期段階から関わり、「ユーザーにどんな価値を届け、どう認知してもらうか」という視点を組み込んでいくこと。つまり、ブランドづくりにデザインをどう生かすか――その探究もデザイナーの重要な役割である。

 ブランドをつくることは、自社製品の価値や魅力を他社製品からはっきりと差別化することにほかならない。そこにデザインの力を活用し、コモディティー化から脱し、企業の持続的な成長を実現していく。LIXILはその取り組みに成功している。

 瀬戸さんの「デザイン観」で特に印象的だったのは、デザインを単なる装飾や専門職の領域にとどめず、経営の根幹に据えていることだ。その思想を体現する人材をChief Design & Brand Identity Officerに迎え、さらにその考え方を自ら社内に浸透させている。「ユーザーにどんな価値を届け、どう認知してもらうか」という視点を全社員が共有する――。瀬戸さんはそれを「全ての社員がデザイナーであるべき」という言葉で表現している。

 製品やサービスの上流工程にデザイナーが関与すべきであるという考え方は、必ずしも独創的なものではない。しかし、そのモデルの根底にある思想を自らの言葉で社員に伝えられている経営者は、決して多くない。LIXILの取り組みは、経営とデザインの、一つのあるべき形を提示していると思う。

(第16回に続く)