一部の学術研究と最近の膨大な数のネット記事は、マルチタスクに否定的な見解を示している。取り組む課題を頻繁に切り替えることにより、脳の処理能力が大幅に浪費されると主張し、それを理由に、マルチタスクが生産性を低下させることは避けられないと結論づけるものがほとんどだ。

 こうした主張との関連でよく知られている動画がある。

 その動画は、注意が散漫になると、見落としをしやすくなることを浮き彫りにしている。数人の人たちがバスケットボールのパス回しをしている動画だ。その動画を実験参加者に見せて、白いユニフォームを着たプレーヤーたちがおこなうパスの回数を数えるよう指示する。

 すると、少なくとも半分の人は、動画が始まって数秒後にゴリラが真ん中を横切ったことに気づかなかった。この実験結果を見るかぎり、私たちは同時に2つのことに注意を払えないと言えそうだ。科学的な結論が示された以上、もはや議論の余地はない……のだろうか。

 実際、マルチタスクが確実に失敗する状況はある。友達やパートナーと話しているときに、上の空でソーシャルメディアを見ていたり、自動車を運転しながら、テキストメッセージを打ったり、おしゃべりしながらプログラミングをしたり、2つのことを同時に心配したり、子どもの世話をしながらデータ解析をおこなったりしようとすれば、ほぼ確実に悪い結果を招く。

 大きな弊害が生じるパターンとしてよくあるのは、会議中に着信メールをチェックして、厳しい内容のメッセージを読んでしまうケースだ。そのメールを読んだ瞬間、さまざまな思考と感情が脳内で渦巻き始める。

 その結果、会議の議論には貢献できなくなるが、そうかといって、その場ですぐに厄介なメールに対応することもできない(会議が終わるまでメールをチェックしないように自己抑制できていれば、格段に好ましい結果だっただろう)。マルチタスクを試みて、救いようのない大失敗に終わった経験は、誰でもあるに違いない。

 しかし、ときには、問題なくマルチタスクを実践できているように感じられるときもある。