ちょうどこの頃、高齢者施設経営者の友人から、「彼らが履ける靴がないから作ってほしい」という相談が舞い込んだ。

 可能性を感じた十河会長はOEM事業を社員に任せ、夫婦2人で丸2年かけて開発した。「スリッパやルームシューズの経験はあっても靴は全くの別物。普通の靴メーカーなら遅くても半年でできるところを2年もかかってしまった」と十河会長は苦笑する。

 しかし、長い開発期間の中で何度となく施設を訪ねて利用者の話を聞いたことで、高齢者が身体的な不自由に加え、心の不自由を抱えていることを思い知ったという。

靴メーカーではないから
可能だった独自の販売方法

 その結果、完成したケアシューズ「あゆみ」は、95年の発売当時から、「片方ずつ別のサイズで注文できる」「片方のみ半額で販売」という、靴業界では考えられない販売体制を採った。「靴屋ではないからできたことだと思う。目の前の人たちにとってはそれが必要だと知っていたから」と十河会長は語る。

ケアシューズ「あゆみ」同書より転載
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 現在は毎日5000〜6000足を出荷しているというが、そのうち25%は片方だけだったり特殊仕様だったりと、何らかの形で特殊な製品であり、他社がまねできない、徳武産業の競争力の源泉となっている。

 そして、利用者の声を徹底的に集めてデータとして管理し、商品開発に生かしてもいる。その数は年間3万通になる。

顧客から届くアンケートはがき同書より転載
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