それら全体を見渡したうえで、「ラ・トラットリア」はモバイルオーダーシステムを採用し徹底すると決めたわけです。店や様々なビジネスにおいて「誰ひとり取り残さない」というのは、かなうことのない理想論なのです。

「ラ・トラットリア」は、モバイルオーダー以外の注文方式を認めないと決めたことがすべてであるため、スマートフォン操作が苦手な白川に対しては慣れるまで操作方法を説明することが店としての最大限の配慮であり、慣れる「つもりがない」白川への配慮は行わなくてよいといえるのです。

常連の高齢者からの
「差別」批判にどう応えるか

 サポートを断ると、残念ながら白川は二度と来店しないかもしれません。しかし、繰り返しますが、「誰ひとり取り残さない」ことが理想論である以上、これは仕方がないことです。

『実践カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』『実践カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』(日本能率協会コンサルティング 経団連出版)

「ラ・トラットリア」の新しい注文方法は、家族経営の店にとって様々な面で大事な基盤になる要素のはずです。それを白川が妨げるのであれば、残念ながら再来店してもらわなくてかまわないということでしょう。

「ラ・トラットリア」は、「高齢者お断り」ではなく「モバイルオーダーをしていただけない方お断り」です。似たような「お断り」例としては、「男性はジャケット着用」というドレスコードや「12歳以下のお子さまお断り」といったルールなどがあります。これらはいずれも「差別」ではありません。

 店側が、自らの提供したい価値のために合理的な理由で「お断り」をすることは、なんら問題ではありません。とかく「差別だ」と主張する発言がSNSなどをにぎわしていますが、「差別よそおい」や「弱者よそおい」に屈しては、自店や自社が実現したいことができなくなってしまいます。