健一は困惑しつつも、毅然とした態度を崩さなかった。「そのようなことを申し上げるつもりはありません。白川さんにはこれからもお越しいただきたいと思っております。ぜひ、当店のシステムをご理解いただき、できる範囲でご協力いただければと思います」。
「もういいわ」。白川は立ち上がった。「こんな不親切な店には二度と来ないから。友だちにも言っておくわ」。
健一は静かに頭を下げた。「ご不便をおかけして大変申し訳ございません。もしお気持ちが変わられたら、いつでもお待ちしておりますのでお越しください。初めは不慣れでも、私たちがお手伝いしますので」。
白川は友人たちを連れて、怒りながら店を出ていった。
例外を作り始めると
システム導入の意味がなくなる
店内が落ち着いた頃、家族3人はカウンターに集まった。
「お父さん、あれでよかったの?白川さん、長い間来てくれた常連のお客さまだったのに」。翔太は心配そうに尋ねた。
健一は穏やかな表情で息子に答えた。「確かに残念だよ。でも、私たちには私たちの方針がある。1人のお客さまのために例外を作り始めると、システム導入の意味がなくなってしまう」。
「お客さまにはできないと決めつけるよりも、挑戦される機会を提供する方が、本当の意味での敬意ではないかしら」
健一はうなずいた。「そうだね。私たちができるのは、変化への適応をサポートすることだ。それに、私たちの新しいやり方を根本から変えるわけにはいかない」。
「でも、白川さんたちみたいなお客さまを失うのは痛いよね」。翔太は少し落ち込んだ様子で言った。
「確かにそうだ」。健一は認めた。「でも、このシステムのおかげで、より多くの新しいお客さまにも来ていただけるようになった。長い目で見れば、これが正しい選択だと信じているよ」。
3人は店内を見渡した。多くの客がスマートフォンでスムーズに注文し、会話を楽しみながら食事をしている様子が見えた。
「結局、すべてのお客さまに満足していただくことは難しいのかもしれない。でも、私たちの信じる方向性を貫き、できる限りのサポートを提供していこう」。健一は静かに言った。
美香と翔太はうなずき、それぞれの持ち場に戻っていった。店内には再び、心地よい会話と食事を楽しむ客たちの声が響いていた。







