お相手の田中宏和さんもぽかんとしている。通常人と人の出会いは、違う名前の人同士が出会うのである。それが同じ名前の2人が出会ってしまった。人の出会いの意味が混乱しているのである。だから笑うしかない。この目の前の人を何と呼べば良いのかわからなくなっているのである。その気まずさを一旦棚上げにして会話をする。
「ご連絡をありがとうございました。こうして同姓同名の方に会うのは、はじめてです」
同姓同名ネタが続出し
話題は尽きない
このいたたまれない空気をあらかじめ想定して、資料を出力してきた。インターネット上の無料の「田中宏和」姓名判断をいくつかである。共通の話題はこれに尽きる。
実際それらの鑑定結果はどれも良かったのである。
「田中宏和は良い名前ですよね」「そんな気はしてましたが、はっきり言って田中宏和はいいです」
2人揃って名前馬鹿(なまえばか)である。
「近鉄バファローズのドラフト1位指名の田中宏和さんは知ってます?」
「ポケモンの主題歌の作曲も田中宏和さんですよね?」
「小さい頃のあだ名は何でした?わたしは、小学校の時は『たなひろ』でした。その後、京都は『田中』が多すぎて、『宏和』と下の名前で呼ばれることが多かったですね。東京に出てきてからも同じで」
「『宏』の漢字は説明しにくいですよね。『関口宏』『玉木宏』のとか、ウ冠にカタカナの『ナ』に『ム』で、『平和』の『和』と説明しますね」
「そうそうそう!」
「タナカヒロカズ族」でしか共感できないネタが続々と出てくる。ヒトを含む霊長類の脳内には、ミラーニューロンという、相手の行動を見ただけで鏡のように自分も同じ行動をした時と同じ活性化が生じる脳神経細胞があるという。名前が同じだと、さらに脳のシンクロ度が高まるのか。
「社団法人田中宏和」を
設立したらどうなる?
思いつきで「社団法人田中宏和を設立したいですね」と提案してみた。
田中宏和だけが構成員という団体である。
人数がまとまることでできる独自の活動があるのではないか。







