話を数学に戻そう。「インド人は数学が得意」というイメージがさらに崩れたのは、我が子が1年ほど通っていた現地の学校での体験だった。この学校では、語学以外は英語で授業が行われ、外国からの児童や生徒も受け入れていた。

 語学はもちろん、数学の授業でも苦労するかもしれないと思ったが、中学3年生の娘は「九九が怪しい同級生もいるし、数学が苦手って言う生徒はそれなりにいる」と言ってきた。

 小学2年生だった息子の担当教員に直接話を聞くと、「日本人の多くはインド人の子どもより数学が得意だから、心配する必要は無い」と言われてしまった。かけ算の学習が始まったのも2年生の後期からで、日本との差は感じられない。

 教員に「九九は、どの段まで暗記するのがよい?」と聞いてみると、「強制はしないが、12の段くらいまで覚えるのをお勧めする」とのことだった。

 これなら、算数や数学の得意な日本人と違いはないだろう。ただ、インドのトップ層の実力は、私のような凡人には計り知れないものがあるのも確かだ。

インド代表の金メダリストが語る
「数学の美しさ」

 100カ国・地域以上の高校生らが集まる国際数学オリンピック。24年はトップ3が米国、中国、韓国の順で、インドは過去最高の4位に輝いた。ちなみに、日本は14位だった。インドは世界一の頂に立ったことはないが、近いうちにその壁を打ち破ることが期待されている。

 3大会連続でインド代表として出場し、23年の日本大会では成績優秀者として金メダルを獲得したアルジュン・グプタさん(18)は「数年かけて準備してくる中国のような国と違い、インドでは大会の認知度がまだまだ低い」と明かす。

 数学オリンピックの前には1日8~10時間を勉強にあてたという。魅力を聞くと、「1問は90分もあり、頭脳を使い、自ら解答を発明しなければならない。それが数学への興味や関心をさらに引き立てるんです」と言う。

 過去の大会の問題文を見せると、さらに目を輝かせた。「この問題文、たった3行しか書いてないのに、解答方法は何通りもあるんです。それが数学の美しさです」と笑った。正直なところ、私は「数学を美しい」と感じたことはない。どうやってその境地に達するのか、すぐには理解できそうにない。