「任せたいか」より「任せられるか」
思考を変えるだけで仕事は動き出す

 1980年代初頭、コンサルタントとして働いていた頃の話だ。デビッドは多くのシニアレベルのプロフェッショナルとともに、彼らのデスクでGTDのプロセスを実践していた。

「把握する」のステップが終わったあと、インボックスに大量のタスクが溜まったので、「見極め」へと進んでいった。

 このステップでは、それぞれに必要な「次のアクション」を決めてもらっていたが、その場で片付けられないもの(2分ルール〔編集部注/2分で片付けられるタスクは、わざわざシステムやリストに登録せずにその場でやってしまおうという考え方〕に該当しないもの)については、「これは誰かに任せられますか?」と問いかけた。

 ここでのポイントは、「任せたいか?」ではなく「任せられるか?」と聞いたことだ。「任せたいか?」と尋ねると、「本当は自分でやったほうがいいのではないか」「任せるのが不安だ」といった感情が先に立ってしまう。

 しかし、「任せられるか?」と問えば、仕事の性質や役割分担の観点から、より客観的に判断しやすくなる。そのようにして「任せられる」と判断したタスクは「連絡待ち」リストに入れ、アシスタントから依頼を送ってもらうように指導した。

 そして2日目になると、思いがけない変化が起きた。前日に依頼した仕事がすでに進んでおり、そのフィードバックがインボックスに戻っていたのだ。

 このプロセスを行なうことがなければ、ずっと放置されていたようなタスクが前に進んでいたことに、彼らは新鮮な驚きを感じていたようだった。

上司と部下の立場を超えて
得意な仕事を任せ合う

 権限委譲を成功させるためには、ワークフローと同様に段階を踏んで進めていくことが重要だ。

 そこで参考になるのがフェルナンド・フローレス(チリの哲学者・元政治家)の研究である。

 彼はふだん何気なく交わしている「会話」を、より意識的かつ正確に活用することで、他の人とスムーズに協力できるようになる方法を研究してきた。