新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「偏差値や受験難易度だけで語られがちだった子育てに新しい視点を取り入れてほしい」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、近年広がっている推薦入試について解説します。

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推薦入試=裏口入学?――広がる誤解と本当の話

正直に言えば、現在の日本では「推薦入試」に対する評価は決して良くありません。私は教育業界で仕事をしているのですが、あるメディア関係のパーティーで教育関係者の方に「推薦入試対策の塾を運営しています」と挨拶したところ、露骨に無視されたことがあります。そのときに感じた空気は、「推薦=ズルをして入る道」という偏見そのものでした。

「推薦入試で受かるのはズルい」「コネで入れる」「面接なんて何の意味があるのか」。そんな声は、私たちが運営しているSNSの投稿にも数えきれないほど寄せられます。

たとえば、東北大学が2050年までに総合型選抜の割合を100%にする方針を打ち出したというニュースを自分達のメディアで取り上げた際には、信じられないほどの批判コメントが殺到しました。

「東北大学も堕ちたな」「学力試験をやめるなんて日本の教育の終わりだ」「面接で何がわかるっていうんだ」そんな声が次々に寄せられました。

しかし、ここには非常に大きな誤解があります。というより、多くの人が「推薦入試」とひとくくりに批判しているものの、推薦入試には3つの異なる仕組みがあることを、意外と知らないのです。

実は「推薦入試」は3種類ある

現在、大学入試における推薦入試には大きく3つの種類があります。

それが、以下の3つです。
① 総合型選抜(旧AO入試)
② 学校推薦型選抜
③ 指定校推薦

まず、総合型選抜は、いわば「大学と受験生のマッチング入試」です。学力試験の点数では測れない、主体性・探究心・思考力・表現力などを、面接や志望理由書、小論文、プレゼンなどを通して多角的に評価します。大学が求める人材像(アドミッション・ポリシー)に合うかどうかを見極める入試です。

次に、学校推薦型選抜。これは高校の先生の推薦を受けて出願する入試です。評定平均(いわゆる通知表の成績)が基準を満たしていることが条件で、面接や小論文を通じて人物面を評価します。生徒の努力や誠実さ、学校生活での継続的な頑張りを評価する仕組みです。

そして最後に、指定校推薦。これは、大学があらかじめ特定の高校に「この学校から何名まで推薦を受け付けます」と“枠”を与え、その高校の校長推薦を受けた生徒を優先的に合格させる制度です。基本的にその高校内での評定順位などによって推薦されるため、実質的に“校内選抜”がすでに済んでいる形になります。

批判されているのは「推薦」ではなく「指定校推薦」

では、世の中で「推薦入試はズルい」「裏口入学だ」と批判されているのは、どのタイプの入試でしょうか?

実は、その多くはこの指定校推薦に対するイメージから生まれています。

指定校推薦は、高校による差異が大きく、きちんと正しく運用されている高校もあるものの、一部その基準が不透明で批判の対象になっているような運用をされている高校もあるため、他の受験生から見て「努力せずに進学しているように見える」ことがあります。SNSでは「指定校で受かった子が遊んでいる」といった投稿も散見され、それが“推薦全体”への悪印象につながってしまっているのです。

問題なのは、これら3つの入試をすべて「推薦入試」と一括りにして議論してしまっていることです。実際には、総合型選抜で合格する生徒は、誰よりも多くの時間を使って自己分析をし、志望理由書を練り上げ、課題研究やボランティア、課外活動に真剣に取り組んでいます。

何十回も面接練習をし、他者との議論を重ね、自分の将来を具体的に語れるようにする。その過程は、単なる「裏口」どころか、人生のプレゼンテーションそのものです。

その上、総合型選抜を実施する大学の中には、普通に学力の試験が行われるところもあります。「推薦入試=学力を見ない入試」というイメージがあるかもしれませんが、実際には「学力も見るし、それ以外のものも見る入試」なのです。

仕組みを正しく理解する

もちろん、すべての推薦入試が完璧というわけではありません。高校によっては情報格差があり、推薦入試への理解が浅いまま制度を活用できていない現場もあります。

だからこそ、必要なのは「推薦入試=悪」という思考停止ではなく、仕組みを正しく理解することです。これからの時代、大学入試は確実に「多様な力を評価する方向」へ進んでいきます。

その流れの中で、推薦入試は“特別な裏道”ではなく、新しい評価の主戦場になっていくのです。
だからこそ、まずは正しく知ってほしいのです。

そして、もし批判するなら、「推薦入試のどれを、どんな理由で批判しているのか」を自覚的にしてほしい。そこから初めて、建設的な議論が生まれるのではないでしょうか。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)