もちろん、これらの数字だけで「DXによって人件費率を改善した」とは言い切れません。しかし、売り上げが拡大するなかで、人員を大幅に増やさずに運営効率を高めている点は注目に値します。

 こうした変革を一店舗単位の工夫にとどめず、グループ全体へと波及させられるのも、すかいらーくの大きな強みです。

 同社は全国10拠点のセントラルキッチンを持ち、国内外で約3000店舗を展開しています。このスケールの大きさがあるからこそ、変革の成果を組織全体で最大化し、仕組みとして定着させることで、持続的なインパクトを生み出すことができるのです。これは、他社には容易に模倣できない、すかいらーくならではの強みと言えるでしょう。

 要するに、すかいらーくのDXは、単なるIT導入ではなく、値上げやメニュー刷新などと並ぶ全社的な収益構造の改革として機能していると考えられます。

DXが加速しても
「無人店舗」にはならないワケ

 すかいらーくでは、こうしたDXの取り組みがあったからこそ、店長に「年収1000万円」を支払う原資が確保できたと考えられます。

 ところで、ここでふと疑問が浮かびます。

 DXを進めるなら、いっそのこと「無人店舗でもいいのでは?」と。

 実際、コンビニ業界では無人店舗の実験が進められてきました。ガストもその道を選ぶこともできたはずです。にもかかわらず、そうはしなかったのは、なぜでしょうか。それはファミレスという業態の価値が「顧客経験価値」にあるからです。

 顧客経験価値とは、単なる商品・サービス自体の金銭的・物質的な価値ではなく、それを利用した際の感覚的・心理的な価値を指します。

 ファミレスの場合、それは「適切なタイミングのあたたかい接客」「居心地の良さ」「地域とのつながり」など、人との関わりによって生まれる価値です。

 こうした体験は、テクノロジーだけでは提供できません。むしろデジタル化が急速に進む時代だからこそ、「人にしか生み出せない価値」こそが差別化の源泉となります。

 これは単純な無人化では成立しないのです。