店長は「店舗経営者」へ
「年収1000万円」が示す強烈なメッセージ

 ファミレスの本質的な価値を守りながら、DXによって収益構造を変革したのが、すかいらーくの取り組みです。

 ここで、もう一つ疑問が浮かびます。

 店長の年収を1000万円に引き上げることで、本当にパフォーマンスは高まるのでしょうか。

 この問いを考える上でヒントになるのが、心理学者フレデリック・ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」です。

 この理論では、人が働くときの要因を二つに分けて考えます。

 一つは、不満をもたらす“衛生要因”(例:給与や労働条件)。もう一つは、仕事に満足をもたらす“動機付け要因”(例:やりがいや裁量権)です。

 重要なのは、この二つは「表裏一体」ではなく、まったく別軸であるということです。

 例えば、給与を上げれば不満は減りますが、それだけで仕事の満足度が高まるわけではありません。

 すかいらーくは、外食業界に根付く「低賃金」という衛生要因の課題を店長に「年収1000万円」を支払う制度によって改善しました。しかし、報酬による満足の先にこそ、「何を目指して働くのか」という本質的な問いが立ち上がります。

 そこで同社はDXを通じて、店長の仕事の「中身」そのものを再設計しようとしています。

 発注・在庫管理・レジ締めといった日次オペレーションの一部をシステム化・自動化することで、店長に「売り上げ拡大」「顧客満足向上」といった経営的判断に向き合う余裕を生み出します。

 つまり、給与改善によって不満を解消し(衛生要因)、DXによって“裁量”と“挑戦の機会”を与える(動機付け要因)、という2軸で意欲を引き出そうとしているのです。