俺なんか、まだマシじゃん
他人の不幸が心の支えに
路上でのスカウトは、ナンパなどよりはるかに難しい。
やり手のスカウトは皆、相手の心を読み、操るスペシャリストだ。私の頭にクエスチョン・マークが浮かんでいることを察した彼は、すぐに言葉を足してくれた。
「自分より酷い場所にいたり、辛い目にあっている人がいると思うと頑張れるんです。『俺なんか、まだマシじゃん』って。だから、とにかく悲惨な本とか雑誌をお願いします」
私は妙に納得してしまった。
「そうか、単純に暗い気持ちになるわけじゃないんですね」
「むしろ、他人の不幸が心の支えなんですよ」
ドライで軽妙なトークに感心し、私はその後、彼と「ビジネス半分、親しみ半分」の関係になった。
彼や彼の部下、友人が何かしらの理由で警察の厄介になる度に、彼は私を選任してくれるようになり、プライベートでも酒を酌み交わし、リアルな歌舞伎町の裏話を聞かせてもらう。いつの間にか、そんな関係になった。
彼は、自分より不幸な人々の物語を心の支えにするだけでなく、同房になった者たちと交流し、口頭試験を行い、自ら経営する会社のメンバーにしてしまうほどの「コミュニケーションお化け」でもあった。
なぜ彼は、逮捕されたのか。それは「スカウト」という仕事がそもそも違法なビジネスだからなのか。いや、そうではない。スカウトというビジネスそのものは合法だ。それゆえに、テレビをつければ、転職エージェントを名乗る人材紹介会社のコマーシャルが四六時中流れている。そして繰り返されるナレーション。
「あなたの価値は想像以上だ」。
読者の皆さんに理解していただきたいのは、有名な俳優をコマーシャルに起用している大企業と、歌舞伎町の路上をうろつく小さなグループの間に、「スカウト」というビジネスをめぐる本質的内容の差はないということだ。







