PEファンドが支援した
ファイントゥデイ設立の舞台裏
CVCキャピタル・パートナーズ(CVC)は1981年に設立された欧州系のプライベートエクイティ(PE)ファンド。世界で30拠点を展開し、約35兆円の資金を運用する。同社のマネージング・パートナーであり、日本法人であるCVCアジア・パシフィック・ジャパンの代表取締役で共同代表を務める赤池敦史氏は、まず日本におけるPE市場の現状をこう概説した。
「2000年から徐々に伸長し、2021年以降は大きく拡大しました。米中摩擦によって中国から引き上げられた欧米の資金が日本に向かってきており、対GDP比での市場規模は今後、2~3倍に増える可能性があります」
CVCキャピタル・パートナーズ マネージング・パートナーCVCアジア・パシフィック・ジャパン 代表取締役 日本共同代表
赤池敦史氏Atsushi Akaike2015年CVCに入社、日本共同代表として国内PE投資事業を統括。CVCグローバルのアジア投資役員会、ボードメンバーも務める。それ以前は、アドバンテッジパートナーズにて11年以上シニア・パートナーを務めたほか、マッキンゼー・アンド・カンパニーおよびPwCに勤務。東京大学工学部学士、修士課程修了、コロラドスクール・オブ・マインズ鉱山工学博士課程修了。
前職時代を含め、これまで20件弱の投資案件を主導してきたという赤池氏。資生堂のパーソナルケア事業(日用品)を切り離して2021年に設立されたファイントゥデイも、その一つだ。「TSUBAKI」や「uno」などの人気ブランドを持つパーソナルケア事業が、なぜカーブアウトの対象になったのか。
2016年、赤池氏は資生堂の魚谷雅彦社長(当時)に接触、「高価格帯の化粧品と安価な日用品の混在によるブランドの希薄化」を理由に、パーソナルケア事業の合弁事業化を提案した。自力での事業再編にこだわる魚谷氏に対して粘り強く交渉を続ける中、コロナ禍によるインバウンド需要の消失で資生堂の業績が低迷。構造改革の必要性から交渉が一気に動き、「人材や会社はこちらで準備するので、数年は協力してほしいと提案し、受諾していただいた」と話す。
新会社の設立に向け、資生堂とともに課題を洗い出し、対策を検討・実行。転籍する従業員に対してはミーティングの場を設け、赤池氏自身も説明を行ったという。
「ある社員からは『7割は悲しい、2割は悔しい、1割は見返してやるという気持ち』と言われました。その『見返してやる』という思いをてこにして、給与やボーナスの引き上げなどを実施して従業員が活躍できる環境を整えたことが、現在の安定経営の大きな要因の一つになったと考えています」
2021年7月のファイントゥデイ発足後は、2年ほどかけてスタンドアローン(自立化)の準備を進めた。当初、資生堂から転籍した人員は370人。資生堂の支援を受けながら採用(機能の拡充)と会社の規模拡大を並行して進め、2023年には自立化を達成。現在では社員数は2000人に達し、R&Dを推進するラボの設立によって開発力が大幅に向上した。「非常に長く困難の多いプロジェクトでしたが、再成長の基盤が整備されるまで投資が進んだと評価しています」と赤池氏は語る。
このほか、直近の事業承継を伴うPE投資の事例として、家庭教師派遣事業を行うトライグループについても説明。テレビCMからデジタル広告への投資シフト、教材プラットフォームの整備などにより、ROIC重視の経営に転換した結果、この1~2年で利益が大きく向上したという。
講演の最後、参加者から「ファイントゥデイのカーブアウトは、なぜ資生堂単独でできなかったのか」との質問が寄せられると、赤池氏はこう答えた。
「PEファンドが企業価値を評価する際、一時的なコストや投資は除外して企業価値を評価します。そのため、20~30%のIRR(内部収益率)が見込めれば積極的に資金を拠出します。四半期開示も含め、業績のバランスを考慮しなければいけない事業会社には、そういう投資は難しいのではないでしょうか」
潤沢な資金力を背景に、企業の「稼ぐ力」を高めるPEファンド。信頼関係を築くことができれば、企業にとってよきパートナーとなるのは間違いない。







