「軽自動車規格」という謎の縛りは、日本以外、世界のどこにも存在しない。だから軽のジムニーを販売するのは日本だけで、海外で売られているジムニーはすべて1.5Lの“小型四輪駆動車”である。「軽自動車版ジムニー」と「登録車のシエラ(1.5L)」が併売される国は、日本をおいて他に存在しない。あぁ、黄金の国ジパング。

 そしてこの“二重構造”が、そのまま生産体制にも影響を与えている。

 現行の4代目ジムニーが登場した2018年当時、スズキは「新型ジムニーは静岡の湖西工場で生産し、日本国内および海外に向けて供給する」と発表していた。つまり現行型の発売当初は“湖西から世界へ”だったわけだ。

「5ドアのジムニー」が登場した事情

 しかし発売直後から受注が想定を大きく超え、国内外で「納期1年超え」の状態が長く続いた。湖西工場は軽ジムニーとシエラの3ドアだけで手いっぱいとなり、フル稼働でも需要に追いつかない状況が常態化した。

 うれしい悲鳴も、長く続けばただの悲鳴になる。この状況を打破すべく、スズキは2021年1月、インドのグルガオン工場で3ドアジムニーの生産と輸出を開始した。世界へ向けた“第二の生産拠点”を新たに設けたのだ。

 ここからが面白い(と言ってはスズキに失礼だが……)。

 日本では、軽規格(660cc)による“短くて軽い”ジムニーこそスズキの本懐であり、原理主義的なファン層は「3ドアでなければジムニーではない」と固く信じている。

 だがその一方で、「ジムニーの雰囲気は好きだが、3ドアでは家族で使えない」という一般ユーザーも確実に存在した。子どもの乗り降りは大変だし、大きな荷物も入らない。要するに日常使いには向いていない(もっと言うと、最終購入決定権を持つ奥様に説明がつかない)。かくして「本当はジムニーが欲しいのだけど」、泣く泣く購入を断念するユーザーが少なくなかったのだ。

 海外では5ドアに対する要望がさらに強く、かつ明確だった。

 インドでは、ジムニーが軍や警察の車両として長年使われてきた歴史がある。少しググっただけでも、迷彩塗装を施した現地名“Gypsy”が砂塵を巻き上げて走る姿がザクザク出てくる。こうした“軍用的タフさ”に加えて、「家族4人が普通に乗れるジムニー」へのニーズも高まっていた。